< 平成9年 夏 >         平成21年11月28日掲載

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  父の忌を十とせ咲きつぐ鉄線花     (5月7日)
  父の忌の客をもてなす豆御飯         〃
  新茶買ひ可も不可もなき身過ぎかな
  幟立つ土佐の狭間の一軒家       (高知県)
  灯を消してなほ短夜を話し込む


  衣更へて身のたよりなき雨ひと日
  卯の花腐し鴨居に喪服掛けて干す   (加藤正一氏十年祭)
  山寺の盛衰ひそと著莪の花        (蓮随山 旧梅香寺跡)
  山門のほかなにもなき葎かな           〃
  短夜の海より明くる露天風呂       (南紀勝浦 浦島温泉)


  午後の暇偸みたたずむ花菖蒲      (伊勢神宮外宮 勾玉池)
  清々と勾玉池の花菖蒲               〃
  初菖蒲風捉ふるも幼かり              〃
  末社訪ふ人の稀なる苔の花        (伊勢神宮外宮)
  万緑や伊勢に日の神風の神            〃


         <三重県桑名市 吟行会下見>

          伊勢平野大きく梅雨に入りにけり       
          暮れがての大河の静寂梅雨深し    (揖斐・長良川)
          梅雨暗き鳥屋の孔雀や威を張るも   (九華公園 桑名城址)
          亀の子の塵芥と見られて泳ぎだす        〃
          今昔の七里の渡し蟹がをり


    さくらんぼ二人でつまみ恋ならず
    酒過ぎて時失へる水中花
    百合活けて母の起き臥し音少な
    自治会に出て扇風機の風の端
    鳰の巣も秘密の一つ少年期

    暑き日や血族のまた癌に逝き    (従姉逝去)
    羅の袖を押へて骨拾ふ           〃
    明易に点る提灯喪の家        (井上義治氏逝去)


    伊良湖岬佇てば夕焼の真只中    (愛知県渥美半島)
    志摩行くやみぎ蝉時雨ひだり海    (鳥羽市 パールロード)
    師に蹤きて海を眺むる雲の峰     (        〃    鳥羽展望台)
    落日の海に尾をひく露台かな 
    逝く夏の砂踏み鳴らし淋しみぬ


< 平成9年 秋・冬 >       

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  初秋の風街尽きしところより       (伊勢市 宮川)     
  初秋や百鳥繁き明の空           
  吾の背に子子の背に帽子つくつくし    
  向ひ家の取り壊されて萩残る        
  踏切の音の狂ほし盆の月        (伊勢市 宮町踏切り)
  一生の一刻使ひ葡萄食む


  稲刈つて十戸の村の墓あらは      (近鉄車窓 伊勢平野)
  穭田のはかなし筋目正しても          〃
  赤まんま幼馴染の家の跡  
  秋爽の一日は無為を極め込みぬ  
  赤い羽根角をまがりてすぐ外す      (伊勢市駅前)
  捨てかねて人形に挿す赤い羽根


  秋燈や猫の居据る家長の座
  一匹の秋の蚊またも見失ふ
  長き夜や本伏せ置きて一仕事
  燈を消して虫鳴かぬ夜と気付きたる
  虫絶えて何をよるべに眠らむか
  冷まじや夜半の枕辺音のなき


  漢ひとり夜食に点す厨の灯
  運動会見てゐて昔見てゐたる    (伊勢市立早修小学校)
  終に棲む常磐二丁目金木犀
  紅葉してテレビに映る故郷美し
  陽の甘し干柿によく染みこんで
  酔漢の黄落を踏み泣いてをり


            < 三重県 桑名市・三川公園吟行会 >

              鳥居建ち伊勢路ここより川千鳥
              山茶花や壕のみ残る城の跡
              枯芦や三川寄りて音のなき
              芦原の狭間は鴨の通り道

              夕焼の色極まりて冬ざるる
              夕焚火火を見ると人寡黙なる
              落葉焚けぶりて暮をうながしぬ
              セーターの真白きを着て師を迎ふ
              燗酒や師の前に首竦めつつ


    < 東海支部 闇汁句会 >
         (愛知県岡崎市 都筑邸)

    雨戸閉づ闇汁の闇つくるため
    闇汁に男のひとり小さくをり
    闇汁や酒酌む手許おぼつかな
    闇汁の誰の箸かや触れあひぬ

    闇汁の具の小さきを探り取る
    闇汁の何とは知らず美味かりし
    闇汁の果てて眩しき灯を点す
    闇汁の果てたるあとの鍋の様


              小春日や通勤電車海に沿ひ    (神戸在住時代回想)
              屑籠に反故と吸殻枯れし菊
              冬服の内ポケットより去年の物
              冬薔薇妻とは呼べぬひとと棲む
              伊賀越えの車窓真暗に時雨けり  (近鉄大阪線車窓)
              故郷はタイムカプセル除夜篝     (伊勢神宮 外宮)


< 平成8年 新年・冬・春 >    

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  燃え尽きし篝煙りぬ去年今年   (伊勢神宮 外宮)
  拝礼の小脇に挟む冬帽子          〃
  起掛のおのれの顔に初笑ひ  
  初電話なきまま長子遠く在り
  松過ぎてまた足早の人の群


     夜の雪となりていそいそ酒支度
     木登りの子に枯落葉うづたかし   (五十鈴公園)  
     風花の風にあそびて地におりず
     凍道にまた人転びわれ転び

     猫がきて一家揃ひぬ置炬燵
     母坐して上座決まりぬ置炬燵
     母の粥うましうましと風邪を引く


     息白く「花いらんかなこふてんか」  (浦之橋商店街)  
     物売のつい銭こぼす寒さかな         〃          
     物売の掃いて立ち去る冬菜屑         〃
     物売の今日まだ見えぬ冬日向        〃


        海あかり花菜あかりの故郷よ
        一徹に町に残れる畑を打つ      (伊勢市大世古)
        春眠や旅かなはねば旅の夢
        魚屋に魚のにほひ水温む       (浦之橋商店街)
        何がなし遥かなるもの春愁
        春夕べひと日開けたる窓閉めて


        白木蓮の咲き切れば来る別離かな
        吾妹乗る飛機もう見えぬ霞かな    (中部国際空港)   
        春の夢今日見送りしひととをり
        独り言ふゑて妹ゐぬ春燈

       
        花冷や葬儀に並ぶ膝頭         (従兄浩氏葬儀)
        花屑の下水口よりとぎれなし
        鶯や墓地出でて時動きだす       (一誉坊墓地)
        春昼や独りぼつちの雲浮かび
        寧日や花種蒔いて文書いて


< 平成8年 夏 >  

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  田水張り山懐を深くしぬ         (三重県度会郡度会町) 
  到来の筍愛しや土まみれ
  まだ見えぬ海の匂ひの若葉風     (志摩行)
  時計屋の時の記念日暇に過ぐ
  ほうたるや子は故郷を皆去んぬ


  紫陽花の芽から双葉へ日々流る
  紫陽花や昔見たくて路地歩く
  白靴や旅の始めは駅に立ち        (伊勢市駅)
  青梅雨や楓林に陰のなき         (三重県伊賀上野 上野城公園)
  夏至の日やためらひがちにネオン点き  


  梅雨晴やまたも塵紙交換車
  ビル建つと噂ばかりの葎かな       (伊勢市駅前)
  枇杷すすり行きたくなりし父の墓
  ドッジボール見るだけの子が片蔭に    (伊勢市立早修小学校)
  

        鵜篝の爆ぜて蠢く美濃の闇      (岐阜県関市尾瀬) 
        疲鵜や抗ひ弱く魚吐けり              〃
        夏草の路傍に何の献花かや      (三重県度会郡一之瀬) 
        墓山の登りはなやぐ鴨足草            〃

        
        戻りたる子のきらきらと汗まみれ
        空蝉の生も死もなく木に縋る
        夕蝉のとぎれしがまた鳴きだしぬ
        遠雷や淋しき時は窓に倚り 


< 平成8年 秋・冬 >         

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  香煙に朝日鋭し原爆忌
  鐘の音のほかは黙せよ原爆忌
  町騒の中の黙祷広島忌

  いつまでも仕掛花火の薄煙     (伊勢神宮奉納宮川花火大会)
  花火より帰りて見遣る遠花火              〃
  花火終へ今日三日月と気付きたる           〃
  線香花火好きと言ふ君が好き              


  眠る子に明日の朝顔いくつ咲く
  コスモスに風呼ぶ妹の笑ひ声    (伊勢市郊外)
  小鳥来る渚一人は淋しけれ      (伊勢市二見浦)  
  妹恋ふや月かげ海に道つくり         〃
  奥伊勢の闇より闇へ天の川      (三重県度会郡中村)
 

  秋灯を過ぎわが影に追越さる
  街灯を辿りて故の無き愁思
  灯を消せば窓うきあがる無月かな
  秋の燈の母に一つ我にひとつ
  しまひ湯は気儘に使ふちちろ虫


  朝市ですぐ食む林檎一つ買ふ    (岐阜県高山市)
  もう一人の我がゐて抱く曼珠沙華  (伊勢市郊外)
  早々と祭果てたる秋時雨           〃
  減反の田に気晴らしの秋桜          〃
  秋夕焼待つ人あれば足早し


  菊の香の神垣にをるしづ心      (伊勢神宮外宮)
  こきみよく玉砂利をふむ菊日和        〃
  神杉の杜しんしんと秋の声           〃
  神杉に突上げられて天高し           〃
  行秋の堂を覗けば闇ばかり      (滋賀県大津市 比叡山延暦寺)


                <愛知県豊橋公園・伊良子岬 吟行会>

                  薄き日を溜めてやすけき冬の園
                  日の射して落ちくる木の葉よく廻る
                  赤すぎて拾ひし紅葉捨ててしまふ
                  冬紅葉散るも残るも悲しき色

                  衆にゐてひとり心地の冬の浜
                  冬海の人を拒める波頭
                  間向へば歓喜のごとし冬怒涛
                  冬ざれの海の華やぎ波の花
                  釣人のざぶざぶと入る冬の波
                  灯を消せば海の闇来る冬衾

                  旅終へてあと平凡に冬籠る


   立冬の夜のやはらかき雨の音
   落葉掃く次の落葉のために掃く   (伊勢神宮外宮)
   右は伊勢左は奈良へ初時雨    (三重県伊賀上野 鍵屋の辻)
   寄鍋や七人家族いま二人
   掛大根河を挟みて対峙せる     (伊勢市内 宮川堤)
   年の夜を電池切れゐし掛時計
   荒星に火の粉を飛ばす除夜篝    (伊勢神宮外宮)


<平成7年 新年・冬・春 >          

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  いつ打ちし釘か今年も注連掛ける
  あら玉の母の咎むる無精髭
  病室の明けて御慶もなかりけり    (伊勢慶応義塾大学病院)
  病院の裏口より入る三ヶ日             〃   
  小社の四五人寄りしどんどかな    (伊勢市 今社 )


     冬林檎美味しと妹の癒ゆるなり
     妹癒えて着るセーターの胸小さし
     シャッター音たてて寒夜を憚りぬ
     冬夕焼缶蹴りの子に時疾し
     寄る我を窺ひ啼くや夜の鴨      (伊勢神宮外宮 勾玉池)


        診察を待つ間に倦みし春日かな  (伊勢市 芦野歯科)
        春霰両手添へねば跳ねこぼる
        母と妹なに笑ひ合ふ雛の前
        ところどころ畑打ち終へし犬ふぐり  (伊勢市郊外 円座町)
      
        大阪城一重の濠に残る鴨      (大阪城 五句)
        春光や城仰ぎつつ鳩に餌を        
        観梅の手をつなぎ行く老夫婦       
        啓蟄の園歩む人走る人          
        高層の点りて花見混みはじむ
      
     <妹宅の新築祝いのため上京 七句>         
        春愁の港に佇てばおのづから    (横浜港)
        風光る旅の銀座でパン買つて    (東京 銀座)
        最期まで絡繰時計聴いて春         〃
        丸の内を借景として緑立つ      (皇居前広場)
        マンションの土なき庭の花つつじ   (千葉県 幕張)
        家族写真春燈の紐真ん中に         〃
        くつろぎは我が家にしかず春燈


        子はすぐに濡るるに慣れて磯遊び  (伊勢市 有滝)
        すかんぽや少し昔の残る道      ( 〃   徳川山)     
        逍遥の墓地を横切る花曇       (  〃   浦口)
        春昼の猫の鈴の音母に添ふ
        春の山海見えるまで登らうよ     (伊勢市 朝熊山)


< 平成7年 春 「野遊び」 >           

 「朝」 創刊十五周年記念作品 。 

   「 野遊び 」 30句

  風の音か芽吹きの音か耳を木に     (伊勢市 蓮随山)
  木の芽して森の光に彩添へり            〃
  四五人と今朝は会ひけり木の芽山         〃
  マラソンの子に我を見る木の芽坂          〃
  芽吹く夜の明日信じたるふか眠り          〃
  芽木の香の町目覚めるや紛れけり
  紀の国の陽のきらきらと樹々芽吹く
  初音して柵の向ふは神領区             〃
  夜の木蓮遠き昔に咲くごとし        ( 〃  常磐)
  はくれんのばさりと散つてしづかなり        〃


   白木蓮ぶつかりながら落花せる          〃
   はくれんにネオンの色のめまぐるし        
   白木蓮の散り果てて知る昨夜の風         〃
   白木蓮の一気に散りし虚空かな          〃
   踏青や折々遊ぶ裏の山          (伊勢市 蓮随山)
   見晴るかすどこより空か春の海      ( 〃   二見展望台)
   枝も地も真つ盛りなる紅椿         (伊勢神宮外宮 勾玉池)
   椿咲くこの道夜は怖からむ         (伊勢市 かさもり稲荷) 
   鴉めが椿の枝で御饌狙ふ          ( 〃    蓮随山)
   落椿辿るがごとき山の径               〃


    落椿しばし挿頭して水に捨つ            〃
    野遊びの五感に春真つ只中         (度会郡 玉城町)
    初花に逢へる予感の陽なりけり
    初花にまだ人気なき小学校         (伊勢市立早修小学校)
    どこゆくも妹と連立ち桜咲き
    桜咲き不夜城となる川堤           (伊勢市 宮川堤)
    喧騒のやがて始まる朝桜                〃
    ぼんぼりの残る桜に点りをり               〃
    残桜の山野に溶けてゆく如し         ( 〃  郊外)
    伊勢路逸れ山に向へば桃の村             〃


< 平成7年 夏 >           

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  夏菊や訪ふ人ありし父の墓      (5/7父命日 伊勢市一誉坊墓地)
  窓あけて五月の朝日いざなへる
  薔薇を活け母は昔を見てゐたる
  母麗しカーテン替へて薔薇活けて
  雨の日の腕さびしき更衣
  瀬の音を辿りて滝をめざしけり     (三重県 赤目四十八滝)
  

    杜若夕暮にはや闇の色        (伊勢神宮外宮 勾玉池)
    暮るること忘れて白き花菖蒲           〃
    山里の静寂重し栗の花        (伊勢市 大野木)
    梅雨晴や絵筆に満たす空の色    (  〃  宮川堤)
    梅雨明けて伊勢湾の空大きかり   (伊勢市 大湊)
    休日は阿弥陀被に夏帽子    
        

      伊勢平野押すな押すなと夏の雲
      インターチェンジぐるぐる廻る夾竹桃  (三重県 関インターチェンジ)
      ハイウエー奥伊勢の万緑を断ち    (伊勢高速道開通)
      蚊を打つて妹の安けき眠り守る      
      妹眩し浜のシャワーの虹の中     (伊勢市 二見ヶ浦)
      海光や帽子目深に夏惜しむ           〃  


< 平成7年 秋・冬 >         

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  高空の無心に青し原爆忌       (8月6日)
  敗戦日語る父逝き母の老い      (8月15日)
  日覆の夕日に影の蜻蛉かな
  ぶつかりし物にすがりて秋の蝉
  初秋を描きて尽きぬ青絵具      (伊勢市 宮川堤)
  こほろぎや煙草吸ふたび外に出され
  歩道橋登りて月を近くしぬ       (伊勢市 宮町交差点)
  野分道思はぬ物が転び過ぐ      (自宅前)


   アルプスの一峰白き林檎園       (信州行 六句)
   林檎赤しわれ捥ぎ取つて妹が剥く     
   中元の月倚り懸かる駒ヶ岳          
   鰯雲異郷の空を知るぞ旅           
   旅の夜の紛れ込みたる秋祭
   秋祭薬罐の酒の熱きかな


  秋晴の空を重しと思ふ日よ
  身に入むや祭太鼓の遠くより
  虫時雨俳句嫌ひの夜もありぬ
  鬼灯の花舗の真中で売られけり
  富士に日を残して暮るる芒原      (富士山麓周遊)
  秋の夕日富士に移ろひ失せにけり        〃


   伊勢湾を覆ひ切れざる鰯雲       (伊勢市大湊)
   日陰より躍りいでたる草の絮
   不覚にも穂絮下りたるアスファルト
   穂芒の揺れ広がりて山ゆらぐ      (三重県 御在所岳)
   ラジオ劇佳境に入りし夜なべかな


        銀杏落葉妹の手をわがポケットに
        まだ過去にならじと枝の木の葉かな
        衛士一人日溜まりにゐて神の留守   (伊勢神宮 外宮)
        神留守に二礼二拍手一礼す            〃
        ひと待つて待つて蹴りたる朴落葉
        今日を始める寒さうな空の下
        亡き父の息災問はる冬至風呂      (伊勢市 常磐湯)


        恐々と出す献血の腕寒し     (伊勢病院 従兄緊急手術 12/27)
        青ランプ冴えて微音の採血機           〃
        初雪と知らず術後を眠りをり             〃

        除夜篝餅網の柄の長きこと         (伊勢神宮 外宮)
        ともしびの消すを惜しめる年越す夜


< 平成6年 新年・冬・春 > 

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  ゆつくりと脱ぐ人日の夜の喪服  (佐藤一成氏1月3日逝去)
  戻りたる初荷の一人酔ひ潰れ   (神戸にて勤務時代回顧)


          藤枯れて空の青さを纏ひけり  (志摩市横山展望台)
          冬椿伊勢の海原波見えず          〃
          寝転んでみれば枯芝あたたかし       〃

          寒月にかざして束の鍵を選る
          雪明り地にひく影のなかりけり
          滝凍てて昨夜の刻を留めけり


    シクラメン買つて二人で暮らし初む   (伊勢市宮町駅裏)
    恋猫の戻りて眠るばかりなり
    梅三分塵芥を出すべく早起す    
    春の蝿猫に食はれてしまひけり
    白木蓮明けの光を独り占め        (伊勢市常磐)
    白木蓮のぐうちよきぱあと咲き進む       〃
    花の下老い母がゐて妹とゐて       (  〃 宮川堤)
    さりげなく花冷えの襟直さるる             〃


    ふらここの夜は淋しき人が乗る      (伊勢市今社公園)
    雑木山芽吹きて暮色さだまらず      (  〃 蓮随山)
    落椿とはならず錆びゐたりけり       (  〃 NTT前)
    踏切の鳴つて遠足列乱す         (  〃 宮町踏切)

    石鹸玉ひとつ消えてはひとつ吹く
    石鹸玉ぶつかり消ゆる妹の胸
    石鹸玉空にでて彩失へり


< 平成6年 夏 >  

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  雨晴の青嶺にはかに近々し     (伊勢市蓮随山)
  散松葉尾上神社の浦見えず     (兵庫県高砂)
  青簾飼猫らしき影よぎる
  町並の隙間々々の緑かな      
  ふりむけば遊びし磯に波頭      (伊勢市大湊)
  波遊び浜昼顔に靴脱いで       ( 〃  有滝)   
  祭告ぐ火の見櫓の拡声器       
  百合抱へ一之瀬村の伯父来る

  夕焼の湖北あたりに来て終る     (琵琶湖)
  夕焼消え夜行列車となりにけり      〃
  

   薔薇の香に眠りの深き誕生日
   昼寝覚しばし現し世捜しをり
   人影に鯉の口あく未草        (朝熊山 金剛證寺)
   通院の早起き辛し栗の花
   紫陽花や傘のはみだすランドセル
   ゆふぐれて簾の内のあらはなり
   炎天に踏みだすときの怒肩

   風鈴の空の小さし仮住まひ      (伊勢市宮町駅裏)     
   アパートの窓の夏空下着吊る          〃
   安らかに妹と暮らして涼しけれ          〃
   

    見下ろせば小さき故郷よ雲の峰
    日覆に屋根の影きて夕近し
    虚しさの汗ふいて出る裁判所
    遠雷や会話とぎれしままに坐す
    黒猫の身の置き場なき酷暑かな
    猛暑続きをり今日また雲遠し

    遠泳の真珠筏に休むなり       (三重県鳥羽)
    太平洋蹴りつつ戻る浮袋           〃
    影長きビーチパラソル畳みけり        〃
    海光や日傘を見れば師と思ふ     (鳥羽展望台)
    

     青空を暑し重しと歩くなり
     大旱や伊勢にはあまた神おはす
     万緑のここより先は鉄路なく      (三重県三杉町奥津)    
     蚊帳の中父の話の怖かりし
     蟇鳴かぬと決めて口結ぶ
     大旱のダムの湖底の水溜り

     敵味方色を分けたる夏帽子       (甲子園)
     水撒きの間のしづかさや試合前       〃
     負けて聴く敵の校歌や西日中        〃
     秋立つやホームベースに屋根の影      〃


< 平成6年 秋・冬 >

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  秋めくや泳ぎて二人だけの海   (伊勢市二見ヶ浦) 
  浦里の堤防高き九月かな     (伊勢市大湊)
  木槿咲き朝な移ろふ海の色       〃
  赤とんぼ昔子供は群れ遊び
  夢に彩あり行き行けど曼珠沙華
  やや寒や妹留守の夜の化粧台
  踏切にとどまればそこかしこに秋 (伊勢市宮町)

  十六夜の北に闇なす天城山    (静岡県伊豆)
  十六夜や伊豆に悲しき恋の唄       〃


   野分後の庭の散葉は一日置く
   曼珠沙華消えて再び只の道    (伊勢市郊外)
   白壁の内の人声金木犀       (愛知県岡崎市内)
   ペン先の掠れてきたる夜寒かな
   コスモスを活けて形の定まらず

   昼過ぎてリュックの軽し芒挿す   (三重県青山高原)
   秋草に跼めば妹も来てかがむ        〃
   伊勢平野明るく広く秋高し           〃
   幼ぶる楽しさ芒打ち振れる          〃


  蓑虫の揺れ止みてより暮早し
  蓑虫や捨てきし夢の二つ三つ
  朝の日や一村並べて柿畑      (三重県玉城町蚊野)

  点もるごと杉の木立の間に紅葉   (京都市大原 三千院)
  襖絵の山水淡し照紅葉              〃
  落日に彩失へり紅葉山              〃


            夢捨てて青春終る懐手
            一望の枯木となりぬ柿の村   (三重県玉城町蚊野)
            短日の市場弾むは小半時    (伊勢市浦之橋商店街)
            鯉遊ぶ瀬に散紅葉散紅葉    (伊勢神宮内宮 五十鈴川)
            尾根に出て空より風の枯木山  (伊勢市蓮随山)
            年越の湯屋に残れる客二人   (伊勢市内 常磐湯)

            年行けり我にすべなく妹病めり
            看護婦の常の貌なり年越す夜  (伊勢慶応義塾大学病院)


<平成5年 新年・冬・春 >

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  戻り住むふる里の佳し初詣      (伊勢神宮外宮)
  明けきらぬ杜の暗さや去年今年       〃      
  初夢のわれ風狂の旅にゐる
  読初や著者謹呈の小紙片
  詠初のすぐ眠くなる昼の酒
  四日まだ仕事机に埃置く
  初商日暮るる先に仕舞ひけり
  髪あげて成人の日の貌となる     (長女)
  初旅の海見るために窓拭ふ      (三重県志摩)


          寒燈の点して淋し消せばなほ
          冴ゆる夜の枕時計の夜光文字
          褞袍着て机上に心遊ばせる


    紅梅や日蔭に残る昨夜の雪      (伊勢市月夜宮)
    先を行くひとに影なき朧かな
    どう見ても眼差しあはぬ雛かな
    すぐ岸に寄りたる雛を押しやりぬ    (伊勢市宮川)
    恋猫の今日は戻らぬやもしれず
    春月の外に出で通夜の酔ひ醒ます  (伯父逝く)
    春雨の傘寄り集ふ葬りかな       (中村氏逝く)
    池めぐる人ちらほらと初桜        (伊勢神宮外宮 勾玉池)
    銀行の隣の寺の初桜
    商談のあとはあれこれ花のこと


    孤独てふ気楽さにゐる春燈
    川上は花堤らし水の面          (三重県度会町)
    山藤に雨降りだして暮急ぐ            〃       
    げんげんや吾子と数へる貨車速し   (兵庫県高砂)    
    春めくや瀬戸の潮の目幾重にも    (  〃 淡路島)
    わが家族長子離れて仔猫きて
    温もりといふ重さあり掌に仔猫
    猫の仔の頼るほかなき膝の上
    窓あけて今日のはじまる百千鳥
    造成地まず蒲公英の咲きにけり


<平成5年 夏 >

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  五月躑躅花落としては咲き継ぎぬ
  大滝を仰ぎ序に空あふぐ         (三重県勝浦 那智の大滝)
  滝壺を離れて声を取り戻し              〃
  なにもかも濡れて社の滝祀る             〃
  穴あれば子はすぐ覗く木下闇      (伊勢市蓮随山)
  蚊帳つるもたたむも楽し兄妹       (子供時代回顧)
  蚊帳下ろし青海原の子供部屋          〃
  灯を消してちちはは蚊帳の中に消ゆ       〃
  薔薇挿して五十の恋をしてみむか
  網棚の夏帽とる子抱き上ぐ


    楸邨逝く荒梅雨に新聞濡れ       (7月3日)
    五月雨や城なき濠の深緑        (三重県伊賀上野)
    青梅雨や樹下にてたたむ旅の傘         〃
    下闇の向ふあかるし人の声            〃
    ふるさとの蛍ちいさし愛しけれ
    今日われにいろいろあつて夕焼けて
    花合歓や山路に忽と海景色       (県道12号伊勢南勢線 剣峠)
    わが影のわれに隠れる日の盛り
    流れては跳ねてとどまる水馬      (伊勢神宮外宮 勾玉池)
    水馬睦むと見しが水の影               〃
    気がつけば四方暮れてをり水馬           〃


      日盛の白は淋しや石畳        (伊勢市梅香寺)
      白靴や故郷の土やはらかし
      土を踏むをさなごこちや夕立あと
      くつきりと街に影ある梅雨晴間
      蜜豆を食ふて夫婦の若からず
      飼猫が昼寝のわれを踏みゆけり
      放水のサイレン遠し夜の金魚
      滴りや径細くなり幽くなり       (三重県志摩市磯部 天の岩戸)
      声つくし天の岩戸を蝉囃す              〃
      海に出て果つる伊勢路や雲の峰


<平成5年 秋・冬 >

                                     .
  向日葵の蕾のままぞ秋立つも
  初秋の風こそばゆし足の裏
  町騒の絶えて台風来つつあり
  連れのなきわが足跡や秋の浜    (伊勢市二見ヶ浦)
  合掌の軒端に萩の雨宿り       (岐阜県高山 飛騨民俗村)
  砧打つ今は昔の土座住まひ          〃 
  唐突に体操などをして夜長
  佇めば蜻蛉にわれは一草木     (三重県度会郡玉城 幸神神社)
  不器用な揺れ様風の曼珠沙華    (伊勢市円座 米田新田)
  時計師の刻ままならぬ夜なべかな
  枕辺の燈火小さきに親しめり


              <三重県伊賀上野 吟行会 >

              しろじろと雨の一ト日や九月尽
              雨に聞き止みてふたたび秋の声
              雨やみし杜のひかりや黄落期
              雨やみし静かさ紅葉かつ散れり
              どこからも城見え秋の伊賀上野
              ひよんの実で遊ぶ伊賀路の泊りかな
              夜寒の灯山懐にかたまれり
              鰯雲わが師わが友みな遠し
              伊賀に寄り伊賀に別るる初時雨


    逸早く暮るる路地裏鳳仙花
    幾万に朝日くだけて照紅葉        (伊勢神宮外宮 勾玉池)
    妹留守の淋しき磴火親しめり
    除夜の月わづかに欠けてゐたりけり  (伊勢神宮外宮 除夜詣)


< 平成 4年 新年・冬・春 >

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          元日のはや夕暮の無精髭
          雨降りしことが話題の六日かな


  あかるさの過ぎるはさみし枯野道   (伊勢平野)
  汽車過ぎて後は枯野に動きなし       〃
  乙女らのコート短し足長し        (愛知県 名古屋駅前)
  暖房や講演睡き後部席         (伊勢商工会議所)
  湯たんぽの熱かりし母若かりし  
  良き日らし母かろやかに葱きざむ
  母につく小さな嘘や冬苺


         立春の夕日つれなく沈みけり
         春愁のぱらぱらめくる週刊誌
         潜くよりほかにすべなき残る鴨   (伊勢神宮外宮 勾玉池)
         春氷打ちし小石を弾きたる         〃
         水温む町家の裏の五十鈴川    (伊勢神宮内宮 おはらい町)            
         春潮で濯ぐ鮑を頬張れり       (三重県志摩)
         時々は声かけあつて汐干狩り    (伊勢市一色町)
         桃咲くや奥伊勢の野のとのぐもり
         鴨引きし勾玉池の広さかな     (伊勢神宮外宮 勾玉池)
         杜影の暗し動かぬ春の鴨         〃


         平凡なニュースばかりの春炬燵
         落椿池に流れのありにけり      (伊勢神宮外宮 勾玉池)
         大木の椿落ちたる修羅場かな       〃           
         菜の花や誰も通らぬ歩道橋      (三重県度会郡度会)
         水の辺に人寄り集ふ桜かな      (伊勢市 宮川堤)
         浮かれ世の花咲けば人群れにけり      〃
         花の夜の更けて眠れぬ孤独かな
         白蝶の頭に舞ふごとき睡魔かな


< 平成 4年 夏 >

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  末つ子が髭剃つてゐる子供の日
  父逝きし日よ蒲公英の絮飛べば
  賑わしく父の忌過ぐる鉄線花
  波踏んで童の遊ぶ夏はじめ        (伊勢市二見ヶ浦)
  食卓の足直さねば枇杷転ぶ
  自転車の下りは楽し坂若葉        (伊勢高校)
  古市や杜鵑花あふるる四ツ目垣     (伊勢市古市)
  眠られず薔薇に見られてゐるやうで
  紫陽花の触れてつめたし藍の色     (伊勢市朝熊山頂 金剛證寺)  
  明易やわれ眠るころ母起きて


    奥へ奥へ鳥居つらなる五月闇       (伊勢神宮外宮神苑内・茜神社)
    父の日のひととき過ごす墓の前      (伊勢市一誉坊墓地)
    面映き腕の白さの更衣
    稿の手のとどまりがちに花火の夜
    吊橋を小さな祭の列通る
    川筋の大きく曲る茂りかな         (伊勢市 宮川)
    草いきれ激しくいよよ川細る           〃
    躊躇なく刈り捨てられし野萱草         〃
    ひらひらと手話の手動く青葉光         〃
    梔子の香や花の前過ぎてより       (伊勢市 亀谷記念館)


       野いばらや断崖の上の蜑の墓      (三重県鳥羽市 石鏡漁港) 
       夏つばめ山の上まで町のびて      (兵庫県 神戸)
       夕焼や厨の匂ふ裏通り
       子の背に跼まねばかたつむり見えず  
       自動ドア開くやどつと蝉時雨        (伊勢市立図書館)
       撃たれても笑ふほかなし水鉄砲
       夏シャツの少女駆けぬく交差点      (伊勢市駅前)
       夕焼けて牛舎の中の暗さかな       (三重県度会郡玉城)


< 平成 4年 秋・冬 >

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  けさ秋や打ち重なりし嶺のいろ    (伊勢市 度会橋より)
  原爆の街に片蔭なかりけり      (八月六日)
  黙祷の影の短し広島忌            〃
  母の背のかすかな記憶敗戦日    (八月十五日)
  木洩日を顔に躍らせ葡萄狩る     (兵庫県神戸時代回顧)
  家業には定年のなき夜なべかな
  秋ともし妻はやばやと眠り落つ
  曼珠沙華この道行けば地獄かも    (三重県度会郡度会)
  雨やんで俄に更くる秋の夜
  ひそやかに秋をゆかしむ雨一夜


  穂芒や北へゆくほど雲ふえて     (岐阜県 白山スーパー林道七句)
  鰯雲飛騨路の狭き空覆ふ
  花野道摘みとるどれも名を知らず
  たそがれの湖と芒のひかりかな
  秋天やダム湖に生くるもの見えず
  白山を越え来て美濃の夕芒
  奥美濃の鬼棲むといふ山粧ふ


        < 愛知県小原村・三ヶ根山吟行会 >

          少しづつ少しづつ咲き冬桜      (愛知県小原村十三句)
          山里の音すべからく秋の声          
          師の声の近づいてくる紅葉坂         
          旅の歩は常より遅く昼の虫
          刈田来て峠を越えてまた刈田
          和紙絵見し余韻の中の草紅葉
          久女句碑訪ねて千草踏み乱す
          句集なく逝きて露けき句碑一つ
          身に入むや句碑に寄り添ふ観世音                   
          草の花道々摘みて供花となす
          草の花供へていよよ淋しけれ
          山中の墓はさびしよ草の花
          漆匂ふ和紙工房の実紫

          燈火親し年に一会の友とゐて   (愛知県三ヶ根山五句)
          身に入むやうすうす光る明けの海
          曙に行く秋の色ありにけり
          秋晴や海の遥かの陸浮いて
          旅にゐてなほ旅を恋ふ暮の秋


  立冬や雨やみし夜の音絶ちて
  年忘ネクタイとれば酔深し
  初雪やかなわぬ夢の一人旅
  酔へば子に石焼芋の土産買ふ   (伊勢市桜通り)
  盛り場の外れを灯す夜鳴蕎麦        〃   
  スーパーの雨後の賑ひ冬ぬくし   (伊勢市浦之橋通り)
  枯蔓をとればこのビル崩れさう    (伊勢市内)
  店先の木の葉散るまま休業日
  決済の段取りつかぬ柚子湯かな


«< 平成 3年 新年・冬・春 >