01. 昭和62年

< 昭和 62年 >

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  元日の踏切の音聞こえくる
  六日はや歯科医の椅子に口開けて   (伊勢市 芦野歯科)
  冬夜聞く音の遠さをはかりけり
  コップ置く音のコトンと寒夜かな

    
         雨降りて二月の少し騒めける
         草の芽や煙突残る工場跡
         花菜咲く親子二代の通学路      (伊勢市 宮川中学校)
         啓蟄や吾が商に休みなく
         花売りの花売りいそぐ春の雪     (伊勢市 浦の橋商店街)
         朝ざくら土手のぼんぼり消し忘れ   (伊勢市 宮川堤)
         百房の揺れのまちまち夕ざくら       〃
         人柱祀る祠の遅桜              〃

    
  五月雨やにごりに鯉の見え隠れ   (伊勢神宮内宮)
  五月雨を散らして鳥の枝移り        〃
  街白くなりづかづかと夏来る
  鍾乳洞出で紫陽花の雨の中      (高知県高知)
  梅雨寒に闘犬を見てゐたりけり       〃
  夕焼けて雲一文字海に沿ふ         〃
  老眼に気づきたる夜の冷し酒
  蛍火や友の多くは離郷せり
  川魚のひよつこり跳ねて送り梅雨   (伊勢市 勢田川)

                      
      夜の秋の病室を辞す忍び足       (伊勢市 日赤病院 父入院)
      轡虫病みても父の指図癖           〃
      父見舞ふ十月の月欠けゆけり         〃
      空き缶の浜に転がる雁渡        (伊勢市 二見ヶ浦)
      群がつて近寄りがたき曼珠沙華     (伊勢市横輪)
      彼岸花平家谷には赤すぎる          〃
      

      太刀魚を鷲摑みして物売女       (兵庫県明石)
      秋の日の熱し左の膝小僧
      おのずから空あらたまる良夜かな
      揉むほどに陶土の冷えの手に馴染む
      銀杏散る月夜見宮の空堀に      
      径直しをり神留守の神路山        (伊勢神宮内宮)
      老木の血筋のごとき蔦紅葉       (伊勢市 今社神社)


  夜半覚めて北に雪降る気配かな
  寒月やビルのぼりゆく昇降機       (兵庫県 神戸)
  毛糸編む妻の豊かな膝頭
  鳩笛を買つて師走の人の中
  風花や鳥羽は北への始発駅
  つかの間の雪のあとなるオリオンよ
  残照の村を遠見に冬田道         (伊勢平野 近鉄車窓)