< 昭和 63年 >
.
一月の富士を車窓に目覚めけり (東京都立川の弟を訪う)
短日の東京ビルの影ばかり 〃
はづれとはいへ武蔵野の霜柱 〃
深酒の果の帰宅や雛の夜
薄氷を踏みゐて人に見られけり
卒業子まず病祖父に証書見せ (長女中学卒業)
一もとの桜に残る夕あかり (三重県度会町 度会学園)
花冷の石もて棺の釘を打つ (叔母逝く)
葬の列過ぎて俄の花吹雪 〃
春逝くや父の命の数ふるほど
春尽くる雨風強く父逝けり
すれ違ふ人に鈴の音青五月
さみだるる父亡きあとの花壇かな
遺影拭く梅雨寒の息吐きかけて
紫陽花のいまだ稚き色を買ふ
玉串の蕾もちたる葬りかな (従兄逝く)
島若葉沖ゆく船のまだ見えて (愛知県蒲郡市 竹島)
紫陽花の雨やこの頃ひと恋し
はつたいや遺言もなく父逝きて
日盛りの海辺の駅に丹の鳥居 (伊勢市 二見駅)
わが家のすぐちらかつて子らに夏
大夕焼町の明りの湾に沿ひ (兵庫県神戸市 六甲山頂)
夏草を少し刈り取り猫の墓 (三重県度会郡玉城)
青芒撥ねて蜻蛉を飛ばしけり 〃
蝉時雨伊勢は百余の神祀る
原爆忌時刻通りに電車来て
ひぐらしや幼き頃の傷の跡
わが町の星よく見えて秋めきぬ
流星や妻が少女の声をあぐ (日本丸デッキ)
名画見し余韻にありて薄紅葉 (岡山県倉敷)
萩こぼれ手持ちぶさたな露天商 〃
別れ言ひまた話しだす暮の秋 (兵庫県高砂にて 義母と妻)
家を継ぐ父の形見の褞袍着て
舟の上で面子打つ子のちやんちやんこ (三重県鳥羽市 答志島)
末つ子の逃げ足速く実万両









