04. 平成2年

< 平成 2年 新年・冬・春 >

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  容赦なく子を打ち破り喧嘩独楽
  老い母の声うらがへる歌かるた
  金輪際とられたくなき歌留多あり


    宮跡にいにしへぶりの雪降れり     (奈良県明日香)
    寒凪や海女の額づく潮仏         (三重県志摩市御座)
    蜜柑むくテレビの中で人死んで
    風花の掌に受けとめて形なし
    冬の夜やひとり寝るとき膝曲げて
    北へゆく鞄の上の冬帽子         (北陸行)
    雪はげしふりつむことのなき海に       〃 
    冬帽子押さへ怒涛を見てをりぬ        〃


       春浅く己が温みにねまるなり
       目刺食ひちぎつて無頼ごころかな
       相語る友なく辛夷咲きにけり
       探梅の名残りの傘をたたみけり
       春の夜の娘に腕を組まれけり
       春時雨木立しづかにひかり出す      (兵庫県淡路島)
       水仙の吹かれて瀬戸に波頭          〃  
      

       欄干に並べ置きある落椿          (伊勢神宮外宮 勾玉池)
       一列の端が乱れて春の鴨            〃
       老人のいきいき集ふ朝桜          (伊勢市 宮川堤)
       朝桜悲しきまでにまぶしけれ           〃  
       限りなき如くに落花しきりなり           〃 
       夜半荒れて花の乱舞を思ひをり          〃

< 平成 2年 夏 >

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  鈴蘭の花に音階あるごとし
  石楠花や巫女の幼き笑ひ声     (伊勢神宮)
  麦秋や石垣多き平家村        (伊勢市横輪町)
  ゆかり説く婆の貌佳き菖蒲寺        〃
  身内みな東京に住み麦熟るる
  梅雨晴間ひと待つことの楽しけれ  (愛知県岡崎駅)
  炎天に守りを捨てし天守閣      (  〃  岡崎城)
  蓮の風葉をうらがへしうらがへし           〃
  再会を約し振り合ふ夏帽子      (  〃  岡崎駅)


  蝸牛と付き合ふ暇ぞ欲しかりき
  美しく老いたる母の夏帽子
  伊勢湾の入口塞ぐ雲の峰       (伊勢市二見ヶ浦)
  雲の峰瀑布の如き崩れあり         〃
  晩涼や裏戸より友訪ね来て
  白日の空のうつろや蝉の声      (三重県明和 国立療養所明星病院)
  鷺草のひしめきあつて翔けにけり


         < 蛍 20句 >  (「朝」十周年記念特別作品)

          賑々と蛍の闇に集ひけり    (愛知県額田町乙川 10句)
          堰の音轟く峡の蛍かな           
          唐突に急ぐ蛍のありにけり         
          どう見ても蛍火やはり悲しけれ      
          少年となりて蛍の闇にをり         
          ほうたるとつぶやけば亡き友のこと    
          橋脚をはぐれ蛍の過ぎゆきぬ       
          蛍火の消ゆる刻きて消えにけり      
          山峡の闇の底なる蛍宿           
          瀬の音に目覚めの早き蛍宿              

          蛍舞ふわが古里のそこかしこ     (伊勢市佐八 10句)
          子等連れて名もなき里の蛍狩         
          伊勢なれば平家蛍の舞ひにけり       
          山の背の闇なだらかな蛍狩          
          満天の星座の下の蛍狩            
          明滅の時に乱るる蛍かな           
          ほうたるの指にとまれば指照らす       
          蛍火をつまみ命をもて遊ぶ          
          妻呼んで蛍の闇を深めけり          
          諍ひし妻の見つめる蛍籠            

< 平成 2年 秋・冬 >

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  ロープウェイ天地失せたる霧の中   (神奈川県箱根行 四句)
  見返りの松の細さや秋の湖        
  校庭を一人の走者秋の暮         
  雨止んで虫鳴き出づる旅寝かな 
 

  大文字酒に映して飲み干しぬ      (京都時代 四句)
  大文字消えたる闇を好み佇つ        
  下宿屋の窓に遠見の大文字         
  燈籠の流れ着く先誰ぞ知る 
         

  伊勢平野大き刈田となりにけり
  のつけから大降りしたる月の雨
  花野来て見知らぬ人と話しけり     (山形県天童)
  風邪の子の師に見舞はれて顔隠す
  秋ひとり家の明りを皆つけて  


         短日の東京にゐて落ち着かず   (東京 丸の内公園吟行 六句)
         室咲や地下の茶房の混み合へり
         枯芝や蔭りてベンチ選り直し
         公園を歩き疲れて鴨の水
         贅沢な紅葉落葉の嵩を踏む
         去りがたき空青すぎる紅葉園


         街音の中の小さな鴨の池      (伊勢神宮外宮 勾玉池)  
         枇杷咲いて昔変らぬ裏通り   
         銀杏枯る大往生をしたるごと     (伊勢市 今社神社)
         木守柿幼き我が泣いて過ぐ
         わが母の能登に生まれて冬嫌ひ
         冬あたたか突掛脱げば裏返る
         山河枯れ夕日とどまるすべもなし  (伊勢平野)
         あるときのポインセチアのごとき嘘


         頂の星大いなる子の聖樹
         しまひ湯の寧けさにゐる年の暮
         神杉の闇ふくよかな除夜詣      (伊勢神宮外宮)
         篝火の雨中に猛る除夜詣           〃
         初髪に火の粉をこぼす大篝          〃
         時計まだ時打ち続く去年今年