07. 平成5年

<平成5年 新年・冬・春 >

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  戻り住むふる里の佳し初詣      (伊勢神宮外宮)
  明けきらぬ杜の暗さや去年今年       〃      
  初夢のわれ風狂の旅にゐる
  読初や著者謹呈の小紙片
  詠初のすぐ眠くなる昼の酒
  四日まだ仕事机に埃置く
  初商日暮るる先に仕舞ひけり
  髪あげて成人の日の貌となる     (長女)
  初旅の海見るために窓拭ふ      (三重県志摩)


          寒燈の点して淋し消せばなほ
          冴ゆる夜の枕時計の夜光文字
          褞袍着て机上に心遊ばせる


    紅梅や日蔭に残る昨夜の雪      (伊勢市月夜宮)
    先を行くひとに影なき朧かな
    どう見ても眼差しあはぬ雛かな
    すぐ岸に寄りたる雛を押しやりぬ    (伊勢市宮川)
    恋猫の今日は戻らぬやもしれず
    春月の外に出で通夜の酔ひ醒ます  (伯父逝く)
    春雨の傘寄り集ふ葬りかな       (中村氏逝く)
    池めぐる人ちらほらと初桜        (伊勢神宮外宮 勾玉池)
    銀行の隣の寺の初桜
    商談のあとはあれこれ花のこと


    孤独てふ気楽さにゐる春燈
    川上は花堤らし水の面          (三重県度会町)
    山藤に雨降りだして暮急ぐ            〃       
    げんげんや吾子と数へる貨車速し   (兵庫県高砂)    
    春めくや瀬戸の潮の目幾重にも    (  〃 淡路島)
    わが家族長子離れて仔猫きて
    温もりといふ重さあり掌に仔猫
    猫の仔の頼るほかなき膝の上
    窓あけて今日のはじまる百千鳥
    造成地まず蒲公英の咲きにけり

<平成5年 夏 >

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  五月躑躅花落としては咲き継ぎぬ
  大滝を仰ぎ序に空あふぐ         (三重県勝浦 那智の大滝)
  滝壺を離れて声を取り戻し              〃
  なにもかも濡れて社の滝祀る             〃
  穴あれば子はすぐ覗く木下闇      (伊勢市蓮随山)
  蚊帳つるもたたむも楽し兄妹       (子供時代回顧)
  蚊帳下ろし青海原の子供部屋          〃
  灯を消してちちはは蚊帳の中に消ゆ       〃
  薔薇挿して五十の恋をしてみむか
  網棚の夏帽とる子抱き上ぐ


    楸邨逝く荒梅雨に新聞濡れ       (7月3日)
    五月雨や城なき濠の深緑        (三重県伊賀上野)
    青梅雨や樹下にてたたむ旅の傘         〃
    下闇の向ふあかるし人の声            〃
    ふるさとの蛍ちいさし愛しけれ
    今日われにいろいろあつて夕焼けて
    花合歓や山路に忽と海景色       (県道12号伊勢南勢線 剣峠)
    わが影のわれに隠れる日の盛り
    流れては跳ねてとどまる水馬      (伊勢神宮外宮 勾玉池)
    水馬睦むと見しが水の影               〃
    気がつけば四方暮れてをり水馬           〃


      日盛の白は淋しや石畳        (伊勢市梅香寺)
      白靴や故郷の土やはらかし
      土を踏むをさなごこちや夕立あと
      くつきりと街に影ある梅雨晴間
      蜜豆を食ふて夫婦の若からず
      飼猫が昼寝のわれを踏みゆけり
      放水のサイレン遠し夜の金魚
      滴りや径細くなり幽くなり       (三重県志摩市磯部 天の岩戸)
      声つくし天の岩戸を蝉囃す              〃
      海に出て果つる伊勢路や雲の峰

<平成5年 秋・冬 >

                                     .
  向日葵の蕾のままぞ秋立つも
  初秋の風こそばゆし足の裏
  町騒の絶えて台風来つつあり
  連れのなきわが足跡や秋の浜    (伊勢市二見ヶ浦)
  合掌の軒端に萩の雨宿り       (岐阜県高山 飛騨民俗村)
  砧打つ今は昔の土座住まひ          〃 
  唐突に体操などをして夜長
  佇めば蜻蛉にわれは一草木     (三重県度会郡玉城 幸神神社)
  不器用な揺れ様風の曼珠沙華    (伊勢市円座 米田新田)
  時計師の刻ままならぬ夜なべかな
  枕辺の燈火小さきに親しめり


              <三重県伊賀上野 吟行会 >

              しろじろと雨の一ト日や九月尽
              雨に聞き止みてふたたび秋の声
              雨やみし杜のひかりや黄落期
              雨やみし静かさ紅葉かつ散れり
              どこからも城見え秋の伊賀上野
              ひよんの実で遊ぶ伊賀路の泊りかな
              夜寒の灯山懐にかたまれり
              鰯雲わが師わが友みな遠し
              伊賀に寄り伊賀に別るる初時雨


    逸早く暮るる路地裏鳳仙花
    幾万に朝日くだけて照紅葉        (伊勢神宮外宮 勾玉池)
    妹留守の淋しき磴火親しめり
    除夜の月わづかに欠けてゐたりけり  (伊勢神宮外宮 除夜詣)