09. 平成7年

<平成7年 新年・冬・春 >          

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  いつ打ちし釘か今年も注連掛ける
  あら玉の母の咎むる無精髭
  病室の明けて御慶もなかりけり    (伊勢慶応義塾大学病院)
  病院の裏口より入る三ヶ日             〃   
  小社の四五人寄りしどんどかな    (伊勢市 今社 )


     冬林檎美味しと妹の癒ゆるなり
     妹癒えて着るセーターの胸小さし
     シャッター音たてて寒夜を憚りぬ
     冬夕焼缶蹴りの子に時疾し
     寄る我を窺ひ啼くや夜の鴨      (伊勢神宮外宮 勾玉池)


        診察を待つ間に倦みし春日かな  (伊勢市 芦野歯科)
        春霰両手添へねば跳ねこぼる
        母と妹なに笑ひ合ふ雛の前
        ところどころ畑打ち終へし犬ふぐり  (伊勢市郊外 円座町)
      
        大阪城一重の濠に残る鴨      (大阪城 五句)
        春光や城仰ぎつつ鳩に餌を        
        観梅の手をつなぎ行く老夫婦       
        啓蟄の園歩む人走る人          
        高層の点りて花見混みはじむ
      
     <妹宅の新築祝いのため上京 七句>         
        春愁の港に佇てばおのづから    (横浜港)
        風光る旅の銀座でパン買つて    (東京 銀座)
        最期まで絡繰時計聴いて春         〃
        丸の内を借景として緑立つ      (皇居前広場)
        マンションの土なき庭の花つつじ   (千葉県 幕張)
        家族写真春燈の紐真ん中に         〃
        くつろぎは我が家にしかず春燈


        子はすぐに濡るるに慣れて磯遊び  (伊勢市 有滝)
        すかんぽや少し昔の残る道      ( 〃   徳川山)     
        逍遥の墓地を横切る花曇       (  〃   浦口)
        春昼の猫の鈴の音母に添ふ
        春の山海見えるまで登らうよ     (伊勢市 朝熊山)

< 平成7年 春 「野遊び」 >           

 「朝」 創刊十五周年記念作品 。 

   「 野遊び 」 30句

  風の音か芽吹きの音か耳を木に     (伊勢市 蓮随山)
  木の芽して森の光に彩添へり            〃
  四五人と今朝は会ひけり木の芽山         〃
  マラソンの子に我を見る木の芽坂          〃
  芽吹く夜の明日信じたるふか眠り          〃
  芽木の香の町目覚めるや紛れけり
  紀の国の陽のきらきらと樹々芽吹く
  初音して柵の向ふは神領区             〃
  夜の木蓮遠き昔に咲くごとし        ( 〃  常磐)
  はくれんのばさりと散つてしづかなり        〃


   白木蓮ぶつかりながら落花せる          〃
   はくれんにネオンの色のめまぐるし        
   白木蓮の散り果てて知る昨夜の風         〃
   白木蓮の一気に散りし虚空かな          〃
   踏青や折々遊ぶ裏の山          (伊勢市 蓮随山)
   見晴るかすどこより空か春の海      ( 〃   二見展望台)
   枝も地も真つ盛りなる紅椿         (伊勢神宮外宮 勾玉池)
   椿咲くこの道夜は怖からむ         (伊勢市 かさもり稲荷) 
   鴉めが椿の枝で御饌狙ふ          ( 〃    蓮随山)
   落椿辿るがごとき山の径               〃


    落椿しばし挿頭して水に捨つ            〃
    野遊びの五感に春真つ只中         (度会郡 玉城町)
    初花に逢へる予感の陽なりけり
    初花にまだ人気なき小学校         (伊勢市立早修小学校)
    どこゆくも妹と連立ち桜咲き
    桜咲き不夜城となる川堤           (伊勢市 宮川堤)
    喧騒のやがて始まる朝桜                〃
    ぼんぼりの残る桜に点りをり               〃
    残桜の山野に溶けてゆく如し         ( 〃  郊外)
    伊勢路逸れ山に向へば桃の村             〃

< 平成7年 夏 >           

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  夏菊や訪ふ人ありし父の墓      (5/7父命日 伊勢市一誉坊墓地)
  窓あけて五月の朝日いざなへる
  薔薇を活け母は昔を見てゐたる
  母麗しカーテン替へて薔薇活けて
  雨の日の腕さびしき更衣
  瀬の音を辿りて滝をめざしけり     (三重県 赤目四十八滝)
  

    杜若夕暮にはや闇の色        (伊勢神宮外宮 勾玉池)
    暮るること忘れて白き花菖蒲           〃
    山里の静寂重し栗の花        (伊勢市 大野木)
    梅雨晴や絵筆に満たす空の色    (  〃  宮川堤)
    梅雨明けて伊勢湾の空大きかり   (伊勢市 大湊)
    休日は阿弥陀被に夏帽子    
        

      伊勢平野押すな押すなと夏の雲
      インターチェンジぐるぐる廻る夾竹桃  (三重県 関インターチェンジ)
      ハイウエー奥伊勢の万緑を断ち    (伊勢高速道開通)
      蚊を打つて妹の安けき眠り守る      
      妹眩し浜のシャワーの虹の中     (伊勢市 二見ヶ浦)
      海光や帽子目深に夏惜しむ           〃  

< 平成7年 秋・冬 >         

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  高空の無心に青し原爆忌       (8月6日)
  敗戦日語る父逝き母の老い      (8月15日)
  日覆の夕日に影の蜻蛉かな
  ぶつかりし物にすがりて秋の蝉
  初秋を描きて尽きぬ青絵具      (伊勢市 宮川堤)
  こほろぎや煙草吸ふたび外に出され
  歩道橋登りて月を近くしぬ       (伊勢市 宮町交差点)
  野分道思はぬ物が転び過ぐ      (自宅前)


   アルプスの一峰白き林檎園       (信州行 六句)
   林檎赤しわれ捥ぎ取つて妹が剥く     
   中元の月倚り懸かる駒ヶ岳          
   鰯雲異郷の空を知るぞ旅           
   旅の夜の紛れ込みたる秋祭
   秋祭薬罐の酒の熱きかな


  秋晴の空を重しと思ふ日よ
  身に入むや祭太鼓の遠くより
  虫時雨俳句嫌ひの夜もありぬ
  鬼灯の花舗の真中で売られけり
  富士に日を残して暮るる芒原      (富士山麓周遊)
  秋の夕日富士に移ろひ失せにけり        〃


   伊勢湾を覆ひ切れざる鰯雲       (伊勢市大湊)
   日陰より躍りいでたる草の絮
   不覚にも穂絮下りたるアスファルト
   穂芒の揺れ広がりて山ゆらぐ      (三重県 御在所岳)
   ラジオ劇佳境に入りし夜なべかな


        銀杏落葉妹の手をわがポケットに
        まだ過去にならじと枝の木の葉かな
        衛士一人日溜まりにゐて神の留守   (伊勢神宮 外宮)
        神留守に二礼二拍手一礼す            〃
        ひと待つて待つて蹴りたる朴落葉
        今日を始める寒さうな空の下
        亡き父の息災問はる冬至風呂      (伊勢市 常磐湯)


        恐々と出す献血の腕寒し     (伊勢病院 従兄緊急手術 12/27)
        青ランプ冴えて微音の採血機           〃
        初雪と知らず術後を眠りをり             〃

        除夜篝餅網の柄の長きこと         (伊勢神宮 外宮)
        ともしびの消すを惜しめる年越す夜