10. 平成8年

< 平成8年 新年・冬・春 >    

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  燃え尽きし篝煙りぬ去年今年   (伊勢神宮 外宮)
  拝礼の小脇に挟む冬帽子          〃
  起掛のおのれの顔に初笑ひ  
  初電話なきまま長子遠く在り
  松過ぎてまた足早の人の群


     夜の雪となりていそいそ酒支度
     木登りの子に枯落葉うづたかし   (五十鈴公園)  
     風花の風にあそびて地におりず
     凍道にまた人転びわれ転び

     猫がきて一家揃ひぬ置炬燵
     母坐して上座決まりぬ置炬燵
     母の粥うましうましと風邪を引く


     息白く「花いらんかなこふてんか」  (浦之橋商店街)  
     物売のつい銭こぼす寒さかな         〃          
     物売の掃いて立ち去る冬菜屑         〃
     物売の今日まだ見えぬ冬日向        〃


        海あかり花菜あかりの故郷よ
        一徹に町に残れる畑を打つ      (伊勢市大世古)
        春眠や旅かなはねば旅の夢
        魚屋に魚のにほひ水温む       (浦之橋商店街)
        何がなし遥かなるもの春愁
        春夕べひと日開けたる窓閉めて


        白木蓮の咲き切れば来る別離かな
        吾妹乗る飛機もう見えぬ霞かな    (中部国際空港)   
        春の夢今日見送りしひととをり
        独り言ふゑて妹ゐぬ春燈

       
        花冷や葬儀に並ぶ膝頭         (従兄浩氏葬儀)
        花屑の下水口よりとぎれなし
        鶯や墓地出でて時動きだす       (一誉坊墓地)
        春昼や独りぼつちの雲浮かび
        寧日や花種蒔いて文書いて

< 平成8年 夏 >  

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  田水張り山懐を深くしぬ         (三重県度会郡度会町) 
  到来の筍愛しや土まみれ
  まだ見えぬ海の匂ひの若葉風     (志摩行)
  時計屋の時の記念日暇に過ぐ
  ほうたるや子は故郷を皆去んぬ


  紫陽花の芽から双葉へ日々流る
  紫陽花や昔見たくて路地歩く
  白靴や旅の始めは駅に立ち        (伊勢市駅)
  青梅雨や楓林に陰のなき         (三重県伊賀上野 上野城公園)
  夏至の日やためらひがちにネオン点き  


  梅雨晴やまたも塵紙交換車
  ビル建つと噂ばかりの葎かな       (伊勢市駅前)
  枇杷すすり行きたくなりし父の墓
  ドッジボール見るだけの子が片蔭に    (伊勢市立早修小学校)
  

        鵜篝の爆ぜて蠢く美濃の闇      (岐阜県関市尾瀬) 
        疲鵜や抗ひ弱く魚吐けり              〃
        夏草の路傍に何の献花かや      (三重県度会郡一之瀬) 
        墓山の登りはなやぐ鴨足草            〃

        
        戻りたる子のきらきらと汗まみれ
        空蝉の生も死もなく木に縋る
        夕蝉のとぎれしがまた鳴きだしぬ
        遠雷や淋しき時は窓に倚り 

< 平成8年 秋・冬 >         

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  香煙に朝日鋭し原爆忌
  鐘の音のほかは黙せよ原爆忌
  町騒の中の黙祷広島忌

  いつまでも仕掛花火の薄煙     (伊勢神宮奉納宮川花火大会)
  花火より帰りて見遣る遠花火              〃
  花火終へ今日三日月と気付きたる           〃
  線香花火好きと言ふ君が好き              


  眠る子に明日の朝顔いくつ咲く
  コスモスに風呼ぶ妹の笑ひ声    (伊勢市郊外)
  小鳥来る渚一人は淋しけれ      (伊勢市二見浦)  
  妹恋ふや月かげ海に道つくり         〃
  奥伊勢の闇より闇へ天の川      (三重県度会郡中村)
 

  秋灯を過ぎわが影に追越さる
  街灯を辿りて故の無き愁思
  灯を消せば窓うきあがる無月かな
  秋の燈の母に一つ我にひとつ
  しまひ湯は気儘に使ふちちろ虫


  朝市ですぐ食む林檎一つ買ふ    (岐阜県高山市)
  もう一人の我がゐて抱く曼珠沙華  (伊勢市郊外)
  早々と祭果てたる秋時雨           〃
  減反の田に気晴らしの秋桜          〃
  秋夕焼待つ人あれば足早し


  菊の香の神垣にをるしづ心      (伊勢神宮外宮)
  こきみよく玉砂利をふむ菊日和        〃
  神杉の杜しんしんと秋の声           〃
  神杉に突上げられて天高し           〃
  行秋の堂を覗けば闇ばかり      (滋賀県大津市 比叡山延暦寺)


                <愛知県豊橋公園・伊良子岬 吟行会>

                  薄き日を溜めてやすけき冬の園
                  日の射して落ちくる木の葉よく廻る
                  赤すぎて拾ひし紅葉捨ててしまふ
                  冬紅葉散るも残るも悲しき色

                  衆にゐてひとり心地の冬の浜
                  冬海の人を拒める波頭
                  間向へば歓喜のごとし冬怒涛
                  冬ざれの海の華やぎ波の花
                  釣人のざぶざぶと入る冬の波
                  灯を消せば海の闇来る冬衾

                  旅終へてあと平凡に冬籠る


   立冬の夜のやはらかき雨の音
   落葉掃く次の落葉のために掃く   (伊勢神宮外宮)
   右は伊勢左は奈良へ初時雨    (三重県伊賀上野 鍵屋の辻)
   寄鍋や七人家族いま二人
   掛大根河を挟みて対峙せる     (伊勢市内 宮川堤)
   年の夜を電池切れゐし掛時計
   荒星に火の粉を飛ばす除夜篝    (伊勢神宮外宮)