a. <新年・冬・春>

< 平成8年 新年・冬・春 >    

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  燃え尽きし篝煙りぬ去年今年   (伊勢神宮 外宮)
  拝礼の小脇に挟む冬帽子          〃
  起掛のおのれの顔に初笑ひ  
  初電話なきまま長子遠く在り
  松過ぎてまた足早の人の群


     夜の雪となりていそいそ酒支度
     木登りの子に枯落葉うづたかし   (五十鈴公園)  
     風花の風にあそびて地におりず
     凍道にまた人転びわれ転び

     猫がきて一家揃ひぬ置炬燵
     母坐して上座決まりぬ置炬燵
     母の粥うましうましと風邪を引く


     息白く「花いらんかなこふてんか」  (浦之橋商店街)  
     物売のつい銭こぼす寒さかな         〃          
     物売の掃いて立ち去る冬菜屑         〃
     物売の今日まだ見えぬ冬日向        〃


        海あかり花菜あかりの故郷よ
        一徹に町に残れる畑を打つ      (伊勢市大世古)
        春眠や旅かなはねば旅の夢
        魚屋に魚のにほひ水温む       (浦之橋商店街)
        何がなし遥かなるもの春愁
        春夕べひと日開けたる窓閉めて


        白木蓮の咲き切れば来る別離かな
        吾妹乗る飛機もう見えぬ霞かな    (中部国際空港)   
        春の夢今日見送りしひととをり
        独り言ふゑて妹ゐぬ春燈

       
        花冷や葬儀に並ぶ膝頭         (従兄浩氏葬儀)
        花屑の下水口よりとぎれなし
        鶯や墓地出でて時動きだす       (一誉坊墓地)
        春昼や独りぼつちの雲浮かび
        寧日や花種蒔いて文書いて

<平成7年 新年・冬・春 >          

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  いつ打ちし釘か今年も注連掛ける
  あら玉の母の咎むる無精髭
  病室の明けて御慶もなかりけり    (伊勢慶応義塾大学病院)
  病院の裏口より入る三ヶ日             〃   
  小社の四五人寄りしどんどかな    (伊勢市 今社 )


     冬林檎美味しと妹の癒ゆるなり
     妹癒えて着るセーターの胸小さし
     シャッター音たてて寒夜を憚りぬ
     冬夕焼缶蹴りの子に時疾し
     寄る我を窺ひ啼くや夜の鴨      (伊勢神宮外宮 勾玉池)


        診察を待つ間に倦みし春日かな  (伊勢市 芦野歯科)
        春霰両手添へねば跳ねこぼる
        母と妹なに笑ひ合ふ雛の前
        ところどころ畑打ち終へし犬ふぐり  (伊勢市郊外 円座町)
      
        大阪城一重の濠に残る鴨      (大阪城 五句)
        春光や城仰ぎつつ鳩に餌を        
        観梅の手をつなぎ行く老夫婦       
        啓蟄の園歩む人走る人          
        高層の点りて花見混みはじむ
      
     <妹宅の新築祝いのため上京 七句>         
        春愁の港に佇てばおのづから    (横浜港)
        風光る旅の銀座でパン買つて    (東京 銀座)
        最期まで絡繰時計聴いて春         〃
        丸の内を借景として緑立つ      (皇居前広場)
        マンションの土なき庭の花つつじ   (千葉県 幕張)
        家族写真春燈の紐真ん中に         〃
        くつろぎは我が家にしかず春燈


        子はすぐに濡るるに慣れて磯遊び  (伊勢市 有滝)
        すかんぽや少し昔の残る道      ( 〃   徳川山)     
        逍遥の墓地を横切る花曇       (  〃   浦口)
        春昼の猫の鈴の音母に添ふ
        春の山海見えるまで登らうよ     (伊勢市 朝熊山)

< 平成7年 春 「野遊び」 >           

 「朝」 創刊十五周年記念作品 。 

   「 野遊び 」 30句

  風の音か芽吹きの音か耳を木に     (伊勢市 蓮随山)
  木の芽して森の光に彩添へり            〃
  四五人と今朝は会ひけり木の芽山         〃
  マラソンの子に我を見る木の芽坂          〃
  芽吹く夜の明日信じたるふか眠り          〃
  芽木の香の町目覚めるや紛れけり
  紀の国の陽のきらきらと樹々芽吹く
  初音して柵の向ふは神領区             〃
  夜の木蓮遠き昔に咲くごとし        ( 〃  常磐)
  はくれんのばさりと散つてしづかなり        〃


   白木蓮ぶつかりながら落花せる          〃
   はくれんにネオンの色のめまぐるし        
   白木蓮の散り果てて知る昨夜の風         〃
   白木蓮の一気に散りし虚空かな          〃
   踏青や折々遊ぶ裏の山          (伊勢市 蓮随山)
   見晴るかすどこより空か春の海      ( 〃   二見展望台)
   枝も地も真つ盛りなる紅椿         (伊勢神宮外宮 勾玉池)
   椿咲くこの道夜は怖からむ         (伊勢市 かさもり稲荷) 
   鴉めが椿の枝で御饌狙ふ          ( 〃    蓮随山)
   落椿辿るがごとき山の径               〃


    落椿しばし挿頭して水に捨つ            〃
    野遊びの五感に春真つ只中         (度会郡 玉城町)
    初花に逢へる予感の陽なりけり
    初花にまだ人気なき小学校         (伊勢市立早修小学校)
    どこゆくも妹と連立ち桜咲き
    桜咲き不夜城となる川堤           (伊勢市 宮川堤)
    喧騒のやがて始まる朝桜                〃
    ぼんぼりの残る桜に点りをり               〃
    残桜の山野に溶けてゆく如し         ( 〃  郊外)
    伊勢路逸れ山に向へば桃の村             〃

< 平成6年 新年・冬・春 > 

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  ゆつくりと脱ぐ人日の夜の喪服  (佐藤一成氏1月3日逝去)
  戻りたる初荷の一人酔ひ潰れ   (神戸にて勤務時代回顧)


          藤枯れて空の青さを纏ひけり  (志摩市横山展望台)
          冬椿伊勢の海原波見えず          〃
          寝転んでみれば枯芝あたたかし       〃

          寒月にかざして束の鍵を選る
          雪明り地にひく影のなかりけり
          滝凍てて昨夜の刻を留めけり


    シクラメン買つて二人で暮らし初む   (伊勢市宮町駅裏)
    恋猫の戻りて眠るばかりなり
    梅三分塵芥を出すべく早起す    
    春の蝿猫に食はれてしまひけり
    白木蓮明けの光を独り占め        (伊勢市常磐)
    白木蓮のぐうちよきぱあと咲き進む       〃
    花の下老い母がゐて妹とゐて       (  〃 宮川堤)
    さりげなく花冷えの襟直さるる             〃


    ふらここの夜は淋しき人が乗る      (伊勢市今社公園)
    雑木山芽吹きて暮色さだまらず      (  〃 蓮随山)
    落椿とはならず錆びゐたりけり       (  〃 NTT前)
    踏切の鳴つて遠足列乱す         (  〃 宮町踏切)

    石鹸玉ひとつ消えてはひとつ吹く
    石鹸玉ぶつかり消ゆる妹の胸
    石鹸玉空にでて彩失へり

<平成5年 新年・冬・春 >

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  戻り住むふる里の佳し初詣      (伊勢神宮外宮)
  明けきらぬ杜の暗さや去年今年       〃      
  初夢のわれ風狂の旅にゐる
  読初や著者謹呈の小紙片
  詠初のすぐ眠くなる昼の酒
  四日まだ仕事机に埃置く
  初商日暮るる先に仕舞ひけり
  髪あげて成人の日の貌となる     (長女)
  初旅の海見るために窓拭ふ      (三重県志摩)


          寒燈の点して淋し消せばなほ
          冴ゆる夜の枕時計の夜光文字
          褞袍着て机上に心遊ばせる


    紅梅や日蔭に残る昨夜の雪      (伊勢市月夜宮)
    先を行くひとに影なき朧かな
    どう見ても眼差しあはぬ雛かな
    すぐ岸に寄りたる雛を押しやりぬ    (伊勢市宮川)
    恋猫の今日は戻らぬやもしれず
    春月の外に出で通夜の酔ひ醒ます  (伯父逝く)
    春雨の傘寄り集ふ葬りかな       (中村氏逝く)
    池めぐる人ちらほらと初桜        (伊勢神宮外宮 勾玉池)
    銀行の隣の寺の初桜
    商談のあとはあれこれ花のこと


    孤独てふ気楽さにゐる春燈
    川上は花堤らし水の面          (三重県度会町)
    山藤に雨降りだして暮急ぐ            〃       
    げんげんや吾子と数へる貨車速し   (兵庫県高砂)    
    春めくや瀬戸の潮の目幾重にも    (  〃 淡路島)
    わが家族長子離れて仔猫きて
    温もりといふ重さあり掌に仔猫
    猫の仔の頼るほかなき膝の上
    窓あけて今日のはじまる百千鳥
    造成地まず蒲公英の咲きにけり

< 平成 4年 新年・冬・春 >

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          元日のはや夕暮の無精髭
          雨降りしことが話題の六日かな


  あかるさの過ぎるはさみし枯野道   (伊勢平野)
  汽車過ぎて後は枯野に動きなし       〃
  乙女らのコート短し足長し        (愛知県 名古屋駅前)
  暖房や講演睡き後部席         (伊勢商工会議所)
  湯たんぽの熱かりし母若かりし  
  良き日らし母かろやかに葱きざむ
  母につく小さな嘘や冬苺


         立春の夕日つれなく沈みけり
         春愁のぱらぱらめくる週刊誌
         潜くよりほかにすべなき残る鴨   (伊勢神宮外宮 勾玉池)
         春氷打ちし小石を弾きたる         〃
         水温む町家の裏の五十鈴川    (伊勢神宮内宮 おはらい町)            
         春潮で濯ぐ鮑を頬張れり       (三重県志摩)
         時々は声かけあつて汐干狩り    (伊勢市一色町)
         桃咲くや奥伊勢の野のとのぐもり
         鴨引きし勾玉池の広さかな     (伊勢神宮外宮 勾玉池)
         杜影の暗し動かぬ春の鴨         〃


         平凡なニュースばかりの春炬燵
         落椿池に流れのありにけり      (伊勢神宮外宮 勾玉池)
         大木の椿落ちたる修羅場かな       〃           
         菜の花や誰も通らぬ歩道橋      (三重県度会郡度会)
         水の辺に人寄り集ふ桜かな      (伊勢市 宮川堤)
         浮かれ世の花咲けば人群れにけり      〃
         花の夜の更けて眠れぬ孤独かな
         白蝶の頭に舞ふごとき睡魔かな

< 平成 3年 新年・冬・春 >

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  老鶏の胸張つてゐる初詣
  今年こそ逢はむと添へて初便り
  妹の去りし三日の夕餉かな
  

             霜の夜の別れ告ぐべく電話とる
             沿線の家赤茶けて冬ざるる
             雪深き商人宿に客一人        (兵庫県 城之崎温泉)
             猪鍋や宿の亭主のよく笑ひ          〃
             湯の町を歩く楽しさ懐手            〃
             湯の町に川霧流れ雪晴るる          〃
             寒明の畑黒々と打たれけり      (三重県度会郡玉城)
             シクラメン遠空雪の気配して
             乱暴に雨降つて冬終らしむ


  伊勢志摩の初雪にして雪の果
  暮れぎはの勾玉池の薄氷       (伊勢神宮外宮)
  宇治橋の滑りやすくて春の雪     (伊勢神宮内宮)
  ひさかきの花や別宮ひそとあり         〃
  芽柳や柵を跳びこす子供達      (兵庫県神戸市 長田公園)
  連翹や市立図書館休館日       (伊勢市立図書館)
  春の闇手をつながねばあやふけれ
  白木蓮ひとひら散るに間を置いて   (三重県明和町 国立療養所明星病院)
  また少し母肥え賜ふ啄木忌
  遥かまでけぶりの波の花堤       (伊勢市 宮川堤)
  信号が人せきとめて初燕        (伊勢市駅前)        
  柵に倚り列車見てゐる暮の春         〃 

    
  潮の香のほのかに甘し磯菜摘     (伊勢市 有滝の浜)
  知多見ゆる浜大根の花の径          〃
  行く春のひときはながし鳶の声         〃
  我佇てば妻の跼みて春惜しむ         〃
  花冷の味噌汁ぬくめ独りなり
  月おぼろ逢引のごと娘待つ
  妻とゐる刻を大事に桜餅
  旅なればこその昼酒山笑ふ
  メーデーの幸せさうに行くことよ   

< 平成 2年 新年・冬・春 >

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  容赦なく子を打ち破り喧嘩独楽
  老い母の声うらがへる歌かるた
  金輪際とられたくなき歌留多あり


    宮跡にいにしへぶりの雪降れり     (奈良県明日香)
    寒凪や海女の額づく潮仏         (三重県志摩市御座)
    蜜柑むくテレビの中で人死んで
    風花の掌に受けとめて形なし
    冬の夜やひとり寝るとき膝曲げて
    北へゆく鞄の上の冬帽子         (北陸行)
    雪はげしふりつむことのなき海に       〃 
    冬帽子押さへ怒涛を見てをりぬ        〃


       春浅く己が温みにねまるなり
       目刺食ひちぎつて無頼ごころかな
       相語る友なく辛夷咲きにけり
       探梅の名残りの傘をたたみけり
       春の夜の娘に腕を組まれけり
       春時雨木立しづかにひかり出す      (兵庫県淡路島)
       水仙の吹かれて瀬戸に波頭          〃  
      

       欄干に並べ置きある落椿          (伊勢神宮外宮 勾玉池)
       一列の端が乱れて春の鴨            〃
       老人のいきいき集ふ朝桜          (伊勢市 宮川堤)
       朝桜悲しきまでにまぶしけれ           〃  
       限りなき如くに落花しきりなり           〃 
       夜半荒れて花の乱舞を思ひをり          〃

< 平成1年 >

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  初商店主いささか酒気帯びて
  雛壇に部屋を譲りし吾子と寝る
  土筆煮て優しくなりぬ妻の貌
  花のころ麺ゆがく手に慣れの見え    (弟 ラーメン店開店)
  自転車を磨く春日に映えるまで


          五月雨に神楽高音の葬りかな     (伊勢市 祖霊社)
          五月雨に濡れゐし墓を清めけり     (父 命日)
          鉄線花ひとひら欠けて暮れはじむ      〃
          伊勢湾を藤棚ごしに望みけり      (伊勢市二見町 太江寺 )
          おぼろ夜の通夜の柏手音立てず    (足代画伯逝く)
          万緑のひとさわぎして通り雨       (三重県熊野行)
          万緑の溶けだしそうな紀伊の雨         〃
          爪を切るはや梅雨めける音のして
          短夜をもてあましゐるひとりかな
          雨降つて地の匂ひ立つ凌霄花
          アマリリス空青ければ蕾張る


 <三重県伊勢志摩吟行会 十一句>

  夏蝶や色とりどりの漁具置場    (鳥羽市 石鏡 六句)
  海女の声みな大きくて夏来る       
  老鶯や崖に張りつく海女の墓       
  酒壷に百合の献花や蜑の墓       
  良き潮に声はずませて鮑採り        
  鮑採るひとつは夫の肴かな

  航跡の南に消ゆる夏霞        (パールロード展望台)   
  月涼し波際で聞く波の音        (志摩市浜島 ホテル宝来荘)
  神垣に白極まりし泰山木        (伊勢神宮内宮)
  緑蔭を出てくれなゐの巫女袴        〃
  緑蔭につまづきやすき煉瓦道        〃


           隣家より新妻の出て溝浚へ
           淡路島よく見え風鈴よく鳴りぬ  (兵庫県神戸市垂水上高丸)
           明易や書類散らかる枕元
           不器用に大きく叔母の祭寿司   (三重県度会郡一之瀬)
           住職のすててこでゐる村祭           〃
           祭果て山の端に月かかりけり          〃
           ロングヘア巻いて夏帽子の中へ  (三重県志摩)   
           裸子の奥に見えゐて何でも屋       〃       
           大阪に溢れるネオンビール飲む  (大阪市 梅田)
           落日やこがねの海に立ち泳ぎ   (香川県小豆島)
           吹く事のなき笛磨く夜の秋


  夜業人津軽の唄を聴いてをり
  自販機で酒買ふ夜のちちろ虫
  秋声やもの思ふ日の遠夜汽車
  こほろぎやさざめき通る塾帰り
  冷まじや引く波我をひく如く      (伊勢市二見ヶ浦)
  曼珠沙華咲き一天の紺深む      (伊勢市 宮川堤)
  末枯や井戸を覗けば我がをり     (兵庫県 姫路城)
  山消えて町が生まれて盆踊り     (兵庫県神戸市須磨)
  剃跡の顎撫でて秋惜しみけり
  丹波栗剥いて山河を思ひをり     (神戸時代を懐旧)
  露けさに戸締り早き郷土かな
   

           返り花しまひ込みたる笛出して
           堀の水涸れて擬宝珠の影法師
           大空へ網投げしごと枯桜       (伊勢市 宮川堤)
           落葉踏む音に哀楽ありにけり     (伊勢神宮外宮 勾玉池)
           極まればもの皆さびし冬紅葉        〃      
           神の守る勾玉池や浮寝鳥          〃
           山坂のなくて伊勢路の小春かな   (伊勢市宮川町)
           小春日や「左二見江二里二丁」      〃 
           風呂の湯を豊かに使ひ年を越す    

< 昭和 63年 >

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  一月の富士を車窓に目覚めけり    (東京都立川の弟を訪う)
  短日の東京ビルの影ばかり           〃
  はづれとはいへ武蔵野の霜柱           〃

  
         深酒の果の帰宅や雛の夜
         薄氷を踏みゐて人に見られけり
         卒業子まず病祖父に証書見せ    (長女中学卒業)
         一もとの桜に残る夕あかり       (三重県度会町 度会学園)
         花冷の石もて棺の釘を打つ      (叔母逝く)      
         葬の列過ぎて俄の花吹雪          〃
         春逝くや父の命の数ふるほど
         春尽くる雨風強く父逝けり


  すれ違ふ人に鈴の音青五月
  さみだるる父亡きあとの花壇かな
  遺影拭く梅雨寒の息吐きかけて
  紫陽花のいまだ稚き色を買ふ     
  玉串の蕾もちたる葬りかな       (従兄逝く)
  島若葉沖ゆく船のまだ見えて      (愛知県蒲郡市 竹島)
  紫陽花の雨やこの頃ひと恋し


  はつたいや遺言もなく父逝きて
  日盛りの海辺の駅に丹の鳥居     (伊勢市 二見駅)
  わが家のすぐちらかつて子らに夏
  大夕焼町の明りの湾に沿ひ       (兵庫県神戸市 六甲山頂)
  夏草を少し刈り取り猫の墓        (三重県度会郡玉城)
  青芒撥ねて蜻蛉を飛ばしけり          〃
  蝉時雨伊勢は百余の神祀る


       原爆忌時刻通りに電車来て
       ひぐらしや幼き頃の傷の跡
       わが町の星よく見えて秋めきぬ
       流星や妻が少女の声をあぐ      (日本丸デッキ)
       名画見し余韻にありて薄紅葉     (岡山県倉敷)
       萩こぼれ手持ちぶさたな露天商      〃
       別れ言ひまた話しだす暮の秋     (兵庫県高砂にて 義母と妻)
                  

  家を継ぐ父の形見の褞袍着て
  舟の上で面子打つ子のちやんちやんこ   (三重県鳥羽市 答志島)
  末つ子の逃げ足速く実万両

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