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2006年1月の17件の記事

2006年1月26日 (木)

★伊勢志摩吟行会記 ① <2005/06/16>  

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 この一四,一五日の伊勢志摩吟行会を少し記してみる。
 当地の代表的な観光地を避けてのコースであるので、伊勢志摩をご訪問の折の参考になればと思う。
 
 毎年恒例であるが東海支部の常連メンバーを伊勢志摩にご招待して吟行会を催した。今年の参加者は五人と少人数になった。
 「吟行の五人佳き数牡丹の芽」と以前詠んだ事がある。参加者にとっては却って気楽で楽しい吟行会となり、少し窮屈ではあるが私の車一台で廻る事にした。
 ただ回を重ねて伊勢志摩のメインは皆訪問済みである。四回目の今年は場所を選ぶのに苦労した。

 まず宮内庁御用達の割烹「大喜」で食事をして頂いてから、外宮神苑「勾玉池」へ。
 例年であれば花菖蒲も終わりに近く皆さんを落胆させるだけなのだが、今年はやっと満開の様をご覧頂く事が出来た。
 毎年の伊勢志摩での会であるが私の作句工房「勾玉池」だけは強制的に一番最初にお連れする事にしている。

     花菖蒲先ずは池畔を一巡り  暢一

 次は内宮を素通りして鳥羽磯部に通じる伊勢道路沿いの「天の岩戸」へ。
 山中の小川沿いの小径を辿ると日本百選の一つである名水がこんこんと湧き出る水窟に着く。水垢離の為の滝もあり修行の場でもある。

   垢離の滝飛沫を少し浴びてみる  暢一

 そして「相差(おおさつ)」のホテル「一井」へ向かう。
 志摩の海に向かって南下するとほぼ三十分で着くのであるが、途中に御田祭を十日後に控えて準備の整った磯部の伊勢神宮別宮である「伊雑の宮」により、リアス式の海沿いの景を楽しんで頂く為に相差へは遠回りしつつ、観光スカイラインのパールロードを走る。 
 相差の民宿・旅館は関西・中部でも伊勢海老、鮑、刺身料理を船盛りで廉価に食べさせてくれる事で名を知られている。


 因みに予約したのは「専務お奨めコース \10,500也」。勿論宿泊費込にて堪能出来る料理であった。
 太平洋を眼前に建つホテルは水平線から昇る朝日が売りであるが雨の朝となってしまった。

   果てしなきもの海原の梅雨の色  暢一

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★伊勢志摩吟行会記 ② <2005/06/16>

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 二日目は雨との予報であったので急遽予定を変更して建築物の中の観光を主としてみたが、やはり雨の一日となる。
 パールロードを鳥羽に向かう途中の「海の博物館」へ。
 広大な丘陵に五棟が建つ大規模な物にて古墳公園もある。
 雨の為に初めて訪れる事になったが想像以上の素晴らしさである。
 日本デザイン賞、文部大臣美術部門新人賞、日本建築学界賞、全国公共建築百選と仰々しく掲示されていた。
 また裏手から牡蠣筏の浮く入江に出る事も出来、漁港に牡蛎の作業場も点在していた。的矢牡蛎、浦村牡蛎と言って全国的に知る人ぞ知る高級牡蛎である。

     老鶯や志摩の入江の牡蛎筏  暢一

 茶屋で地元漁民手作りの心太を頂いた後、海沿いに走り鳥羽を通り超えて二見の「菖蒲ろまんの森」へ着く。
 ここの花菖蒲はまだ暫しであったが、錦鯉の小川沿いに多種の紫陽花も咲き、八橋が延々と伸びて四阿のある広大な菖蒲園の雰囲気は悪くはない。

     紫陽花に雨降る旅となりにけり  暢一
 
 
 伊勢に戻り、江戸時代に船による参宮客の玄関であった河港跡にある二軒茶屋にて、当時からの名物「二軒茶屋餅」を頂いた後、昔河岸に栄えた伊勢商人街河崎町にある店舗・蔵・屋敷内を見学。これも豪商振りが偲ばれて中々興味深いものであった。

     紫陽花や伊勢商人の参の蔵  暢一

 最後に伊勢町中の鰻屋「伊勢丸」で食事。
 2階の座敷を借りる事が出来たので、食事後に急遽句会が始まった。三十分の猶予時間で五句。全員が心底俳句が好きなのである。

     鰻屋の二階思はぬ句座となり  暢一

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★①第39回 蛇笏賞 鷲谷七菜子氏 「晨鐘」 <2005/05/29>

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≪鷲谷七菜子≫ (大12・1・7大阪生)
 ◇「馬酔木(水原秋櫻子)」に昭和17年入会。
  「南風(山口草堂)」に昭和21年より師事。昭和59年~平成16年同主宰。現在名誉顧問。
 ◇第2回現代俳句女流賞、第23回俳人協会賞、俳人協会顧問、日本文芸家協会々員。
 ◇句集 「黄炎」「銃身」「花寂び」「游影」「天鼓」「一盞」
  他に「現代俳句入門」、随筆集「咲く花散る花」「古都残照」「櫟林の中で」「四季燦々」等。

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 現在 各俳句賞の中で協会色の無いこの蛇笏賞が権威を保ち俳人にとっても一番嬉しい受賞ではないだろうか。鷲谷七菜子氏には心よりお祝いを申し上げたい。
 
 「沈黙の中に思いをひびかせる俳句という詩形」と作者の云う通り、「晨鐘(しんしょう)」は端正にて澄んだ句集と印象する。
 私の唯一の指針は勿論岡本眸先生であるが、鷲谷七菜子氏の句にも私の目指す作句信条と同じくするものを感じている。 「晨鐘」に惹かれる所以である。

 氏も初期の頃は「俳句は反抗と愛から生まれる」と自身でも言っていたような、飯田龍太氏に「鷲谷さんの句には毒がある」と言われたような句風であったのである。
 初期の作品は第一句集「黄炎」より
   
   十六夜やちひさくなりし琴の爪  が最も知られているが

   野にて裂く封書一片曼珠沙華  「黄炎」
   行きずりの銃身の艶猟夫の眼  「銃身」
   かざしみる刃先うるはし油照り   〃

等の句をご覧頂ければ頷けると思う。
 歳月を経ての深い境地を実感する「晨鐘」である。

 <参考> 「鷲谷七菜子作品集」

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★②第39回 蛇笏賞 鷲谷七菜子氏 「晨鐘」抄 50句 <2005/05/29>

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「晨鐘」抄 50句(「俳誌「俳句」より)

  眉あげて立夏の雲と会ひにけり
  初雁の声か蔵書の中にゐて
  小鳥来る来信太き二三行
  南無南無のもつれてきたる十夜婆
  初伊勢の杉を高しと仰ぎたる
  名の山の襞深く年立ちにけり
  白雲の来りてゐたり薺粥
  昼月の忘られてゐる枯野かな
  鶴引きしあと深海のしづけさに
  山水に日の躍りゐる仏生会

  雨のすぢやや見えてゐる巣立かな
  草深くなりたる家の幟かな
  畳の目まつすぐ夏の来りけり
  道二つ出会ひてゐたる青野かな
  木の国にかくれて恋の螢かな
  老い母の消え入りさうな青葉かな
  青蜥蜴走りし光残りけり
  新涼の見る間にふゆる雨のすぢ
  秋蝉の切羽つまりし声つづく
  雁来ると心に風の立ちし日や
  
  落葉つくしてまざまざと連理の木
  返り花旧居必ず机置き
  枯菊の噴き出してゐる香かな
  日当れば弾み落ちして木の実たち
  古都歩きゐて冬の日の真あたらし
  あめつちの気の満ちてきし牡丹かな
  ひとすぢの涼気の文の来りけり
  沛然と雨若竹の明るさや
  乱おこるらしき雲ゆく枯野かな
  山水のとどろきを身に巣立鳥

  残されし鴨の羽うちの幾度ぞ
  耕人のまだ白雲の下にゐる
  ときに羽うごき抱卵うららかに
  霧の杉神事の笛のつらぬける
  橙を飾り山河をこころにす
  川音のとどろいてゐる恵方かな
  ひとところ草かたまりて雛祭
  木々の芽やかつて耽りし立志伝
  白雲のかなた白雲仏生会
  眉ひろく大暑の山と向ひけり
  
  影の山いつか日の山里神楽
  首めぐらせし水鳥に水ばかり
  春雨といふ音のしてきたるかな
  若竹の息見ゆるかの育ちかな
  夕立のはじめの音と聞きとめし
  籠枕こころに高嶺ありし日や
  落葉木の立ちつくしたる深空かな
  くらがりに柊の香や詩人伝
  木の葉とぶ日やてのひらの薬粒
  行く年の見まわしてみな水の景

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★①菖蒲あや氏 追悼 <2005/05/25>

 「春嶺」主宰 菖蒲あや氏が三月七日に逝去された。享年81歳。
 わが師 岡本眸先生が富安風生先生の「若葉」に入門された折の大先輩であられた方である。
 関東大震災や東京大空襲でも焼失を免れた奇跡のような町、向島の路地で人生の大半を過ごし、 『路地裏の俳人 菖蒲あや』 として俳句界に独自の足跡を残した。

 昭和42年第7回俳人協会賞を句集「路地」にて受賞している。
 因みに岡本眸先生の俳人協会賞受賞は昭和46年第11回にて「若葉」からの相次いでの受賞に親密なお二人は共に喜び合ったと云う。
 代表句は

     路地に生れ路地に育ちし祭髪  菖蒲あや

 眸先生は「朝」4月号に
 「・・・私は、あやさんも好きだったがご家族も好きだった。近隣の人達もみな働き者で家族を愛し、ささやかな望みを大切に、本音で生きて居られた。窓格子から表を通る煮豆屋の車を呼びとめて、うずら豆を買い、はしゃいで食べた覚えがある。 
 楽しかった。・・・今年の春は限りなく淋しい。」
 と追悼文を載せておられる。

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★②菖蒲あや氏 抜粋句 <2005/05/24>

秋刀魚焼く煙の逃くるところなき
路地ぐらし丸見え簾吊ろうがつるまいが
どの路地のどこ曲つても花八ッ手
ひとり身の灯を消し白き夜の団扇  
寒雷や地べたに座り炭ひけば
春を待つ何も挿さざる壷円く
柿をとりつくして天を淋しくす
仏法僧啼きゐることに寝を惜しむ
海の色に朝顔咲かせ路地ぐらし
西瓜喰ふ中年の膝丸出しに
姿見に全身うつる湯ざめかな
   
浅蜊に水いつぱい張って熟睡す
乳房ある故のさびしさ桃すすり
わが露路でつまづく寒に入りにけり
更けし夜の螻蛄に鳴かれて金欲しや
二階より見えて夜明けの夾竹桃
今生に父母なく子なく初天神
ひとり身の日傘廻せば遠くに森
酉の市行かず仕舞の水仕事
母恋し壁にかこまれ風邪に寝て
焼酎のただただ憎し父酔へば
路地の子が礼して駆けて年新た
   
雪だるまよつてたかつて太らしむ
昏れ際の露地に豆腐屋一葉忌
たんぽぽのまぶしく勤めいやな日よ
十五夜の工場鉄扉とざしたる
三色菫コップに活けて退職す
種なしの葡萄を喰みて何か不安
貼り替へし障子の中に寝過しぬ
おしろいが咲いて子供が育つ路地
路地染めて何をもたらす寒夕焼け
スキー帽かぶり糠味噌かき廻す
母と子の生活の幅の溝浚ふ
   
白粉花の風のおちつく縄電車
初夢の中でも炭をかつぐ父 
身一つの旅街角にさくらんぼ
凩を連れて帰るよひとりの部屋
壬生狂言に笛が加はり眠くなる
花街の昼湯が開いて生姜市
打ち水を大きく伸ばし路地に老ゆ
老いゆくは吾みならず飛花落花
サルビアを咲かせ老後の無計画
恋猫に水ぶつかけて路地に老ゆ
鶏鳴に起され四月はじまりぬ

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★俳句寸感 <京都行 ひまわりさん> (のぶ) <2005/05/07>

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ひまわりさんのお句の感想です。

   < 清水の舞台彩る若楓  ひまわり >

 (清々しく綺麗に纏まっていて良いですね。
 ただ少し難しく申し上げると「若楓」だけでよくて、
「彩る」は言わなくても分かる描写ですから厳密に言え
ば必要無いのです。あまり上手い例ではありませんが、
代わりに

    清水の舞台迫り出す若楓

等と詠めば四方若楓の中へ舞台が迫り出しているように
作者が感じた事も表現出来て更に句意の範囲が広がります。
 たった十七文字の短い俳句では言わなくても分かる事は
省略するのが一つのコツですね。

 でも慣れるまでは言うは易く行うは難しですから、
「清水~」のお句は今はこれで十分に良く表現出来ている
と思います。)


   < 夏めいて喧騒嬉し京の夜  ひまわり >

 (このお句は 少し暑かった昼の観光も日が落ち 初夏の
夜の京都の繁華街を気持ち良く歩んでいる作者の思いを表
現していて個性がよく出ていると感じました。
 少し散文的な表現ですので

    喧騒も夏めきて佳き京都の夜

ともう少し韻文的に格好をつけてみました。)

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★第44回俳人協会賞 (平成16年度) <2005/03/26>

◆ 鈴木鷹夫 句集『 千年 』 (自選15句)

   起つときの脚の段取り孕鹿
   夕櫻やがて夜汽車となる窓に
   石鹸玉ひと吹一三七つほど
   千年杉の千年前の夏の雨
   血の味を少年が言ふ麦の秋
   今生は手足を我慢かたつむり
   あおあおと津軽が匂ふ茅の輪かな
   扇もて木曾三川を煽ぐかな
   火祭へ行く黒髪とすれちがふ
   秋茄子にこみあげる紺ありにけり
   水中をさらに落ちゆく木の実かな
   吊るされし鮟鱇何か着せてやれ
   凍鶴の影伸びてをり檻の外
   春待つは妻の帰宅を待つごとし
   わが前の柳眉怖ろし歌留多取
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 【鈴木鷹夫】昭3生(東京都足立区)「千年」は第5句集
 「鶴」から石田波郷没後 「沖」所属 同人 昭55沖賞、
 昭62「門」創刊主宰。平14能村登四郎没後「沖」辞す。
 「木暗また無明の道や二師の無し」の句が「千年」にある。

  自選代表句  男来て鍵開けてゐる雛の店
         落鮎の落ちゆく先に都あり

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★第28回俳人協会新人賞 ① (平成16年度) <2005/03/26>

◆ 辻美奈子 句集「真咲」 (自選15句)

     桜満開おのが身に皮膚いちまい
     春灯やをとこが困るときの眉
     旧姓といふ空蝉に似たるもの
     泣くときにつかふ腹筋豊の秋
     天空に月ひとつわが受精卵
     身ふたつのなんの淋しさ冬麗
     数へ日の閂ゆるき父母の家
     馥郁と闇あり産みし年惜しむ
     ゆつくりと縄締まりゆく花の雨
     大樹いま水さかのぼる立夏かな
     光年は涼しき距離ぞ生まれ来よ
     竹皮を脱ぐやこどもはいつも旬
     翼なけれど裸子を抱く双手
     恋のころ来し花野にて子を抱けり
     手の中に小さき手のある雪催
  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
   【辻美奈子】昭40生(埼玉県川越市)
   昭58「沖」入会、能村登四郎 林翔に師事、同人。
   平5沖新人賞、平7沖珊瑚賞。

   自選代表句  みどり児に貝ほどの舌山笑ふ
          竹皮を脱ぐやこどもはいつも旬

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★第28回俳人協会新人賞 ② (平成16年度) <2005/03/26>

◆ 松永浮堂 句集「げんげ」 (自選15句)

       げんげ田のさざなみに身を投じけり
       大旦海は劫初の色に照る
       炎より弾ける火の粉初不動
       落椿音なきことを未来とす
       千年の墓百年の花吹雪
       花菖蒲だらりの帯を結ふごとく
       雪渓へ一身寄せて一歩かな
       ぼうたんの崩れを誰も止められず
       石ころにこつと当りぬ藻刈鎌
       棒持って遊びにゆく子秋桜
       くちびるはすでに思春期さくらんぼ
       飛び込んで紺の深まる水着かな
       曼珠沙華古墳に発し野に移る
       山国の青き五月に目覚めけり
       荒星に投網を打ってみたくなる
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
    【松永浮堂】昭31生(埼玉県加須市)
    昭52「浮野」入会、落合水尾に師事、同人。平14 浮野大賞。

    自選代表句  妻抱へ下ろして花野つづきをり
           炎より弾ける火の粉初不動

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★第28回俳人協会新人賞 ③ (平成16年度) <2005/03/26>

◆ 山崎祐子 句集「点睛」(自選15句)

   国境に塩のこぼるる淑気かな
   佐保姫へ歩みを揃へフラミンゴ
   そら豆剥くよくしやべる子が側に居て
   夏館氷触れ合ふ音運ぶ
   飛び込みのはがねとなりて水を割る
   こだまする祈り嘆きの壁涼し
   濁り酒干せよ神輿の来る夜ぞ
   蠍座の尾を草原の呑み込みぬ
   天の川いちまいの天真つ二つ
   盆舟にまだあたたかき白団子
   満月が落ちてくるよと眠りけり
   筆箱に芋虫を入れ登校す
   十三夜丹波の壷に水満たす
   木の葉散る音あり宇宙研究所
   小春日の麒麟となれり飴細工
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 【山崎祐子】 昭31生(神奈川県厚木市)
 昭59「風」入会 沢木欣一に師事、同人。平1「風」新人賞。
 平14 「万象」及び「栴檀」同人。

  自選代表句  野分過ぎ勿来の関に月上がる
            こだまする祈り嘆きの壁涼し

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★<№1>2004年ベスト20句 黛 執氏選 <2005/02/16>

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 俳句研究3月号の鼎談にて表記を三氏が語っています。
 かなり個人的に偏った選句振りでのベスト20句ですが、俳句の世界の一つとして興味深く鑑賞しました。

 ◆黛 執氏選
  <昭5神奈川生 「春野」主宰 「晨(あした)」所属 句集に「春野」「野面積」 (第43回俳人協会賞受賞)>

  涅槃図に入りきれざる鳥のこゑ   伊藤伊那男
  峡深し夕日は花にだけ届く     稲畑汀子
  けふも遠いところにゐる案山子かな 今井杏太郎
  日に一度くる夕方や雀の子     岩永佐保
  青空の張りつめて凍鶴となる    遠藤若狭男
  釣り人の後ろに桜立つてをり    大串明
  古雛まなざし水のごとくあり    奥坂まや
  枕やや高しと思ふ遠蛙       片山由美子
  元日や力を出さず声立てず     桂信子
  遠景に人の世見ゆる古巣かな    加藤三七子
  補聴器をはづせば盆のこゑがする  金子青銅
  葛の葉の蔭より順次泳ぎだす    小島健
  毎年の青田ことしの田が青し    斎藤美規
  年迎ふ山河それぞれ位置に就き   鷹羽狩行
  撃たれんと一頭の鹿澄みきりぬ   照井翆
  炎天にもの落したる音しづか    中丸涼
  落鮎のたどり着きたる月の海    福田甲子雄
  春惜しむ夜は贅沢に人と会ふ    保坂リエ
  日脚伸ぶ母の部屋から母のこゑ   本宮哲夫
  美しき落葉とならん願ひあり    森澄雄

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★<№2>2004年ベスト20句 鳥居真里子氏選 <2005/02/16>

◆鳥居真里子氏選
  <昭23東京生 「門」「船団」同人 句集に「鼬の姉妹」(第8回加美俳句大賞)>

  しもやけしもやけまつさかさまである 阿部完市
  放哉のやうなる咳をしてひとり    今井杏太郎
  日常の色に夜桜朝桜         宇多喜代子
  氷旗太宰入水の日なりけり      榎本好宏
  抽斗をからつぽにして百合鴎     大石悦子
  殺生の仕掛けつくりて蛍草      大木あまり
  よし子万事済んだ安心して凍れ    櫂未知子
  雪吊の松囚はれの気品かな      鍵和田ゆう子
  蝉時雨餅肌の母百二歳        金子兜太
  黒潮の遥かに柩八月の        川崎展宏
  初鰹はるかな沖の縞を着る      渋谷道
  億万の翅が生みたる秋の風      高野ムツオ
  花粉症百日経たる虚子忌かな     高山れおな
  安部定にしぐれ花やぐ昭和かな     筑紫磐井
  冬泉覗きて老のナルキソス      辻田克巳
  多分だが磯巾着は義理堅い      坪内稔典
  天高しさびしき人は手を挙げよ    鳴戸奈菜
  鞦韆をゆらして老を鞣(なめ)しけり 八田木枯
  冬眠の蛇身ときをり鱗立つ      正木ゆう子

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★<№3>2004年ベスト20句 渡辺誠一郎氏選 <2005/02/16>

◆渡辺誠一郎氏選
  <昭25宮城生 「小熊座」編集長 句集に「潜水艦」余白の轍」(第3回加美俳句大賞スェーデン賞)>

  頭蓋より大きな蝶の来ていたり    あざ蓉子
  しもやけしもやけまつさかさまである 阿部完市
  空を鳥のながれてゆく夏の暮     今井杏太郎
  晴天に風は見えねど青嵐       岩田由美
  野遊びのやうにみんなで空を見て   大木あまり
  にほひなき不犯の生や浮氷      大木孝子
  釣人の後ろに桜立つてをり      大串明
  虚子の忌の黴のよろしきチーズかな  大島雄作
  枯芒原は空気のあり余りて      小川双々子
  空蝉の軽さとなりし骸かな      片山由美子
  元日や力を出さず声立てず      桂信子
  黒潮の遥かに柩八月の        川崎展宏
  松本サリン忌ざりがにの忌なりけり  小林貴子
  安部定にしぐれ花やぐ昭和かな    筑紫磐井
  蘭奢待どころか冬眠のさなか     永末恵子
  涼み舟ゆつくり月にまはしけり    中西夕紀
  老の日の自分を連れて歩きけり    成田千空
  天高しさびしき人は手を挙げよ    鳴戸奈菜
  暗くなるまで夕焼を見てゐたり    仁平勝
  さざなみは草へ上りぬ夏の月     正木ゆう子

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★あざ蓉子氏 「花組」主宰 <2005/02/04>

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あざ蓉子氏(昭和22年熊本生)現代俳句協会第平成14年度受賞
      「花組」主宰、「豈(あに)」「船団」
       句集『夢数へ』『ミロの鳥』『猿樂』

母のこゑ足して七草揃ひけり
梅林やこの世にすこし声を出す
雛の日の雛人形に骨のあり
はくれんの吐く白昼の男かな
骨の音からんと春のなかにゐる
針のとぶレコード川のあざみかな
あおぞらの蝶は木の股記憶して
てふてふや絵本に影のみつからぬ
おぼろ夜や旅先ではく男下駄
上京や春は傷みしミルク膜
桃さくら股間にあそぶ煙かな
人間へ塩振るあそび桃の花

樟若葉父は厠へ行つたきり
落球と藤の長さを思いけり
首すぢにほつと蛍の生まれけり
さらさらと昼顔をゆく獣たち
炎天へ蝙蝠傘を挿入す
空が遠くて高音のかたつむり
傘さしてやや屋根裏となるキューリ
黒揚羽水の匂ひの法隆寺
神々の神のふどしの滝ならむ
蛇と赤子の歩く天気かな
罌粟の花どこかで釘の錆ぶる音
残されしものに首振る扇風機
夕焼は全裸となりし鉄路かな
女あり夾竹桃を見ておりぬ

星祭死者のこゑ売るレコード店
秋彼岸足音ばかり空ばかり
とどまれば我も素足の曼珠沙華
にわとりも昼の真下で紅葉す

十二月金魚はすこし男かな
生き物の肌やわらかし冬の川
外套のポケットにある海の音
にんじんや右も左も固き椅子
枇杷の花水には水の水死体 

珈琲をすこし残して森に入る
鶴を折る千羽超えても鶴を折る
こんにやくの刺身を食べて別れけり
桃缶のうすきにごりのなかにゐる
にわとりへ白黒映画の手が伸びる
天上に茗荷のふゆることのあり

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★浦川聡子氏   <2005/01/26>

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「俳句」平成17年2月号 掲載

  <ゆふべ星>

    二〇〇五年へローラースケート冬燦燦
    近景にいっぽんの木や冬木立
    空剔(えぐ)る巨大放送局真冬
    雪催ダンスの手足遊泳す
    弦楽の宿る寒木ゆふべ星

 浦川聡子氏は、俳句総合誌の編集に携わって自身も句作を始めた。
 4度目の挑戦で現代俳句新人賞を受賞、石寒太主宰の「炎環」創刊に参加した。
 三年前に始めたインターネトのホームページには、月に2千句が寄せられる。(H16.12.22撮影)

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★≪岡本 眸先生 各誌新年号詠≫ <2005/01/20>

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 岡本 眸先生 各総合俳句誌平成17年1月号掲載句のご紹介です。

「俳句」【初句会】

   われと焚く柚子湯加減に頷ける
   呟けり枯いそぐ木の二三過ぎ
   外燈を包むに銀杏散り過ぎし
   ひとりとて老いとて主婦ぞ冬菜の値(台風のため野菜高騰す)
   石蕗の黄や含漱のあとの試し聲
   年歩む日々充実の葱畑
   遠く来し思ひに佇てり初日影
   同齢のみんな綺麗や初句会

「俳句研究」【蕪蒸し】

   句帖第一ページ日記はじめかな
   初電車大師詣の混みらしや
   読了へて寒夜光量鳴るごとし
   かたまって保線夫黄なり枯るる中
   葱買ひに夜を出でにけり地震のあと
   母在らば叱る湯ざめをしてしまふ
   まろまろと庭石に冬深むなり
   見舞ひしを引きとめられて蕪蒸し
   雪の日やグリム童話の厚表紙
   これよりの一齢重し日記はじめ

「俳句朝日」【仕事はじめ】

   枯鶏頭抜きたる始末手にあまる
   雨止めばすでに夕日や葱畑
   この坂に市電の記憶除夜詣
   境内に及びそめたる土手の枯
   棒状に息吐いて年詰りけり
   年惜しむ鏡の前に目つむりて
   追羽根や朝湯のほてり身に残り
   ひとり夜の賑はひめける吸入器
   人来ねばわが聲もなし家の冬
   日の匂ふ仕事はじめの選句稿
   
   以上

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