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2006年9月 1日 (金)

★ 震災忌 木歩忌

 今日 9月1日は 「震災忌」 ですね。
 俳句では単に 「震災忌」 と詠めば 「関東大震災忌」 の事を指し、秋の季語になっています。


        震災忌向あうて蕎麦啜りけり  久保田万太郎


 同じく大被害をもたらした近年の阪神淡路大震災の忌日については「阪神忌」を季語として詠む例が見られますが、地名に忌を付けただけでは意味を成さず 「阪神震災忌」 とすべきだとの異論もあり季語と認知されている訳ではなさそうです。
 もし関東大震災忌の事を関東忌と言ったりすれば関東の人にとって違和感を拭えないでしょう。 関西に長く居た私自身は阪神忌にどうも馴染めません。 第一 阪神タイガースフアンに怒られそうです。

 ただし、俳句に詠み込み易いように省略した「震災忌」 が既に関東大震災の忌日を指す以上、季語として認知されている「広島忌」の例もある事ですから、詠み込み易く「阪神忌」を季語として認めてもよいのではとの意見にも頷けるところはあります。 難しいところです。
 でも「阪神忌」に違和感を覚える私としては、少し文字数が多くても 「阪神震災忌」 と詠むか 又は他に季語を斡旋するかせざるを得ないのは仕方の無いところでしょうか。

 神戸に長く在住していた事があり、震災3年目の1月17日に震災被害からも少し落ち着きを取り戻した神戸の友人達に招かれて追悼に訪れました。
 その折に何句か詠みましたけれど、既に鷹羽狩行氏等の提唱もあり「阪神忌」を季語として詠んでいる俳句も結構見られた時期でしたが、やはり季語として使いたいとは思いませんでした。
 「阪神震災忌」 の9文字は流石に詠み込み難いので他の季語を斡旋しての句です。


           初旅や遠き日住みし神戸まで
           冬ざれの車窓見つづけなほ飽かず
           震災の事も笑顔で新年会
           熱燗や友の頭白く吾の薄く
           手袋を脱ぎ追悼の記帳待つ

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Img_7747
 「木歩忌」 については昨年に取り上げましたが、短文でしたので大幅に補足編集の上 下記に掲載し直してみましたのでご覧下さい。

 9月1日は木歩忌、境涯の俳人と呼ばれた「富田木歩」の忌日でした。
 山本健吉は「最短詩形の俳句においては、作品の世界が実生活に密着したところに創り上げられるから、あらゆる俳人は境涯の俳人と呼んでいいわけであるが、蕪村、誓子、風生等の作品をわれわれは境涯の俳句と呼ばない。近代ではわずかに村上鬼城と富田木歩とを、境涯の俳人と呼ぶことができるであろう」と言った意味の事を述べています。
 山本健吉著「現代俳句」をお持ちの方はぜひ富田木歩の項をご覧になってみて下さい。

 彼は鰻屋の四男として本所向島に生まれた江戸っ子ですが2歳の時に足が不自由となり、またその後洪水に巻き込まれて一家は極貧の生活を余儀なくされ、姉や妹が遊女として身売りされたりします。
 「木歩」 の俳号は不自由な足からのものです。
          
           背負はれて名月拝す垣の外


 身売りされた妹が宿下がりでの一時帰宅を詠んだ句です。

           居眠りもせよせよ妹の夜寒顔


 晩年(と云ってもまだ20歳代ですが)は結核を患い寝たきりになってしまい、やがて身売りされていた妹までもが結核を患い早世してしまいます。

           我が肩に蜘蛛の糸張る秋の暮
           
           病む妹の枕ずれ云ふ春の暮
           医師の来て垣覗く子や黐の花
           涙湧く眼を追ひ移す朝顔に
           死装束縫ひ寄る灯下秋めきぬ      


 赤貧病床のうちに 関東大震災にて猛火の中を俳友に背負われて逃げましたが、隅田川の堤で享年26歳の若さにて大正12年9月1日落命しました。


           夢に見れば死もなつかしや冬木風


 上記の句碑が向島三囲神社境内に建っているそうです。

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 富田木歩が向島の実家に帰って一泊した折の随筆が 「俳句世界」 の大正6年6月号に掲載されていますが、久し振りに実家で過ごした喜びが窺えます。

 下記はその文章中の俳句を抽出したものですが、20歳の時の作品です。

          墓地越しに町の灯見ゆる遠蛙
          行く春の蚊にほろ醉ひのさめにけり
          鶉來鳴く障子のもとの目覚めかな
          杉の芽に蝶つきかねてめぐりけり
          新聞に鳥影さす庭若葉かな
          汽車音の若葉に籠る夕べかな
          躑躅植ゑて夜冷えする庭を忘れけり
          川蘆の蕭々として暮れぬ蚊食鳥
          蝙蝠の家脚くゞる蘆の風
          蘆の中に犬鳴き入りぬ遠蛙
          行く春や蘆間の水の油色
          青蘆に家の灯もるゝ宵の程

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