★ 重陽の節句
穏やかな好日です。 室温は20℃とこの晩秋の日中の気温としては一番低いですが快適です。
今日は旧暦で9月9日にて 「重陽の節句」です。
俳句総合誌付録の俳句吟行手帳などのカレンダーでは9月9日のところに「重陽の節句」 と記しているものがありますが、「菊の節句」 「菊の日」 とも呼ばれる重陽ですから、今日の事として晩秋の季語と認識するべきでしょうね。
重陽は陽の数字である九が重なる事をめでたいとしたもので「重九」とも言います。
重陽の山里にして不二立てり 水原秋櫻子
重陽や椀の蒔絵のことごとし 長谷川かな女
重陽や冷き茣座を抱いてゆく 飯島晴子
重陽の日や琴出して妻老いぬ 岸風三樓
重陽や舌にさぐりて鯉の骨 能村登四郎
中国では重陽の節句に丘などへ登り菊を浮かべた酒を飲む宴を催す風習がありました。 これを 「登高」 と称して歳時記にも載っていますね。 「菊の宴」 「菊酒」 もまた重陽の節句の傍題季語です。
俳句で詠む折、本意から言えば 「登高」は今日の事として詠まなければならない訳ですが、秋に山へハイキング等に行く事とゝして詠まれる事が多いようです。 陰暦3月3日の季語 「踏青」 にも同じような事が言えますね。
登高や妹もしてみる股覗き 阿波野青畝
登高や秋虹たちて草木濡れ 飯田蛇笏
登高や一曲見せて千曲川 鷹羽狩行
菊酒や粧ひ匂ふ女の童 吉田冬葉
菊の宴いまのわが身にはれがまし 松尾いはほ
母米寿なり真似事の菊の宴 暢一
序でにもう一つ。 「温め酒」は秋の季語ですが、これも重陽の節句に酒を温めて飲むと無病に過ごせるとの言い伝えからのものです。 温めた酒だけの意味で使うのは本意から言えば間違いです。
でも登高の拡大解釈しての使い方と同じく、温め酒が恋しくなる晩秋に健康を願いながら飲むと言った意味で使ってもよいのではと私は思います。
嗜まねど温め酒はよき名なり 高浜虚子
温め酒雀のこゑもなくなりぬ 石田波郷
火美し酒美しやあたためむ 山口青邨
妻と酌む妻は佛や温め酒 森澄雄
老らくの憂ひも恋も温め酒 阿波野青畝
序での序でですが、 「菊の着綿。菊の綿」 と云う季語があります。
これだけでは何の意味かさっぱり判りませんが、これも重陽の行事の一つ。
菊の露は長寿の薬とされていたそうで、重陽の節句の前日に菊花の上へ綿を置き、節句の当日露がおりて菊の香の染みたその綿で身体を撫でると老いを拭い去る事が出来るとの風習です。
昔の人々は実に様々な思いを様々な工夫で自然に願いを託していたのですねぇ。
綿きせて十程若し菊の花 小林一茶
枯菊に着綿程の雲もなし 正岡子規
一茶の句も子規の句も 「菊の着綿」 の季語の知識がないと理解し難いですね。
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