俳句各賞関係

2008年2月 5日 (火)

★ 岡本眸先生 毎日芸術賞受賞。

 冷え込み厳しい日が続きますが、今日の我が家の室温計は午後1時現在11.5℃です。
 一昨日の節分の朝は伊勢では珍しく雪景色にて明けました。
 伊勢神宮の宇治橋での雪掻きの写真が昨日の朝日新聞に掲載されていましたが、数年ぶりの事です。

 昨日2月4日は立春でした。
 俳人はこれ以降の寒さを初春のことゝして感じつゝ詠むことになりますね。
 一昨年 立春を記事にした事があります。宜しければ下記をクリックの上 ご覧下さい。
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            「俳句俳話ノート」  ★ 立春

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 第49回毎日芸術賞の贈呈式が1月28日、東京都港区の東京プリンスホテルで開かれました。
 受賞者について毎日新聞の記事で次のように載っています。
 『毎日芸術賞は俳人の岡本眸(ひとみ)さん▽劇作家・演出家・俳優の野田秀樹さん▽作家の平岩弓枝さん▽写真家の細江英公さん▽歌手の森山良子さんの5人。同特別賞は俳優の三國連太郎さん、千田是也賞は演出家の鈴木裕美さん。毎日書評賞は哲学者の鶴見俊輔さんに贈られた』。

 岡本眸先生のご受賞は蛇笏賞に耀いた句集「午後の椅子」が文学界で最も優れた功績と評価された事によるのでしょう。 (右サイドバー下部の「私の愛読書」にて「午後の椅子」のご紹介をしています)
   

 毎日新聞には受賞者紹介と受賞者の喜びの声の記事が掲載されていましたので、下記に抜粋してみます。

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 『毎日芸術賞の人々: 岡本眸さん』

 第49回毎日芸術賞の贈呈式が28日、東京都港区の東京プリンスホテルで行われる。各部門の受賞者を紹介する。

 ■岡本眸さん--文学2部門(詩・短歌・俳句)

 ◆句集『午後の椅子』(ふらんす堂)

 ◇言葉が肉体となる句を

 俳句を始めて間もなくのころ、師の富安風生(とみやすふうせい)宅にうかがうと先生はいつも2階の日だまりで籐(とう)椅子に腰掛けていた。長い時間のたゆたいに任せるように揺れる椅子が、脳裏に刻まれる。午後の椅子。それは日常身辺を詩と思想に高める俳句観の象徴のように思われる。

 <初電車待つといつもの位置に立つ>。新年の仕事始めか、電車を待つ場所はいつも同じ。律義に日々の仕事を大切にする心情が浮かぶ。かと思えば<星空へハンカチ貼つて生きむかな>と、ハンカチを干すガラス戸の向こうの空に着目する詩的な遠いまなざし。日々の何気なさ。微妙に細動する心の揺らぎ。そして時間の波動。そうしたものからきらめくような言葉を紡ぎ出す。『午後の椅子』は、無心に生活と俳句の言葉に真向かった「眸俳句」の達成を見事に示している。

 60年に及ぶ作句生活が順調であったわけではない。大企業の職場句会で富安風生に出会い、のちに生活俳句の師の岸風三楼(きしふうさんろう)に教えを受けた。だが明るい性格の「東京っ子」に、病や40代での夫の死が待ち受ける。「俳句の根底に流れ続けている生命讃歌と日常を愛する心とは、死を源としているゆえに強靱(きょうじん)」(俳人西村和子さん・俳誌『朝』昨年7月号)なのである。

 『朝』の主宰として、俳人協会副会長としていつの間にか俳壇を先導していた。飯島晴子、桂信子らを次々亡くしたいま、女性俳人の第一人者だが「こんな大きな賞は想像もしてません。生活俳句に取りつかれ、真裸で人生に、言葉に真向かってきただけ」と屈託ない。だが「何気のない言葉でも、その言葉が磨き抜かれ、自分の血肉となっているかどうか。言葉そのものが肉体となっているような、そんな俳句が作りたい。これは私自身だと言える句。使った言葉が自分の意思通りに動いている句を作りたい」と、言葉への執念は揺るぎない。【酒井佐忠】

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 『第49回毎日芸術賞:受賞者の喜びの声』

 第49回毎日芸術賞(2007年度)の贈呈式が1月28日、東京都港区の東京プリンスホテルで行われた。今回は本賞が5氏に、特別賞が1氏に、千田是也賞(演劇部門の寄託賞)が1氏に贈られた。各氏の喜びの声を紹介する。(写真は須賀川理、馬場理沙撮影)

 ◇日記のように詠むが信条--俳人・岡本眸(ひとみ)さん

 ◇句集『午後の椅子』(ふらんす堂)

 師である富安風生(ふうせい)、岸風三楼(きしふうさんろう)に手ほどきを受けてから半世紀が過ぎました。
 俳句は日記のように、日常身辺を詠むことが私の信条です。風生先生晩年の作に「生くることやうやく楽し老の春」という句があります。まだ先生の句境には及びませんが俳句と出会えた喜び、よき師、よき俳句仲間に恵まれたことに感謝しながら、精進したいと思います。(体調不良のため欠席、めいの石原照子さんがあいさつ代読)

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2006年1月26日 (木)

★①第39回 蛇笏賞 鷲谷七菜子氏 「晨鐘」 <2005/05/29>

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≪鷲谷七菜子≫ (大12・1・7大阪生)
 ◇「馬酔木(水原秋櫻子)」に昭和17年入会。
  「南風(山口草堂)」に昭和21年より師事。昭和59年~平成16年同主宰。現在名誉顧問。
 ◇第2回現代俳句女流賞、第23回俳人協会賞、俳人協会顧問、日本文芸家協会々員。
 ◇句集 「黄炎」「銃身」「花寂び」「游影」「天鼓」「一盞」
  他に「現代俳句入門」、随筆集「咲く花散る花」「古都残照」「櫟林の中で」「四季燦々」等。

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 現在 各俳句賞の中で協会色の無いこの蛇笏賞が権威を保ち俳人にとっても一番嬉しい受賞ではないだろうか。鷲谷七菜子氏には心よりお祝いを申し上げたい。
 
 「沈黙の中に思いをひびかせる俳句という詩形」と作者の云う通り、「晨鐘(しんしょう)」は端正にて澄んだ句集と印象する。
 私の唯一の指針は勿論岡本眸先生であるが、鷲谷七菜子氏の句にも私の目指す作句信条と同じくするものを感じている。 「晨鐘」に惹かれる所以である。

 氏も初期の頃は「俳句は反抗と愛から生まれる」と自身でも言っていたような、飯田龍太氏に「鷲谷さんの句には毒がある」と言われたような句風であったのである。
 初期の作品は第一句集「黄炎」より
   
   十六夜やちひさくなりし琴の爪  が最も知られているが

   野にて裂く封書一片曼珠沙華  「黄炎」
   行きずりの銃身の艶猟夫の眼  「銃身」
   かざしみる刃先うるはし油照り   〃

等の句をご覧頂ければ頷けると思う。
 歳月を経ての深い境地を実感する「晨鐘」である。

 <参考> 「鷲谷七菜子作品集」

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★②第39回 蛇笏賞 鷲谷七菜子氏 「晨鐘」抄 50句 <2005/05/29>

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「晨鐘」抄 50句(「俳誌「俳句」より)

  眉あげて立夏の雲と会ひにけり
  初雁の声か蔵書の中にゐて
  小鳥来る来信太き二三行
  南無南無のもつれてきたる十夜婆
  初伊勢の杉を高しと仰ぎたる
  名の山の襞深く年立ちにけり
  白雲の来りてゐたり薺粥
  昼月の忘られてゐる枯野かな
  鶴引きしあと深海のしづけさに
  山水に日の躍りゐる仏生会

  雨のすぢやや見えてゐる巣立かな
  草深くなりたる家の幟かな
  畳の目まつすぐ夏の来りけり
  道二つ出会ひてゐたる青野かな
  木の国にかくれて恋の螢かな
  老い母の消え入りさうな青葉かな
  青蜥蜴走りし光残りけり
  新涼の見る間にふゆる雨のすぢ
  秋蝉の切羽つまりし声つづく
  雁来ると心に風の立ちし日や
  
  落葉つくしてまざまざと連理の木
  返り花旧居必ず机置き
  枯菊の噴き出してゐる香かな
  日当れば弾み落ちして木の実たち
  古都歩きゐて冬の日の真あたらし
  あめつちの気の満ちてきし牡丹かな
  ひとすぢの涼気の文の来りけり
  沛然と雨若竹の明るさや
  乱おこるらしき雲ゆく枯野かな
  山水のとどろきを身に巣立鳥

  残されし鴨の羽うちの幾度ぞ
  耕人のまだ白雲の下にゐる
  ときに羽うごき抱卵うららかに
  霧の杉神事の笛のつらぬける
  橙を飾り山河をこころにす
  川音のとどろいてゐる恵方かな
  ひとところ草かたまりて雛祭
  木々の芽やかつて耽りし立志伝
  白雲のかなた白雲仏生会
  眉ひろく大暑の山と向ひけり
  
  影の山いつか日の山里神楽
  首めぐらせし水鳥に水ばかり
  春雨といふ音のしてきたるかな
  若竹の息見ゆるかの育ちかな
  夕立のはじめの音と聞きとめし
  籠枕こころに高嶺ありし日や
  落葉木の立ちつくしたる深空かな
  くらがりに柊の香や詩人伝
  木の葉とぶ日やてのひらの薬粒
  行く年の見まわしてみな水の景

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★第44回俳人協会賞 (平成16年度) <2005/03/26>

◆ 鈴木鷹夫 句集『 千年 』 (自選15句)

   起つときの脚の段取り孕鹿
   夕櫻やがて夜汽車となる窓に
   石鹸玉ひと吹一三七つほど
   千年杉の千年前の夏の雨
   血の味を少年が言ふ麦の秋
   今生は手足を我慢かたつむり
   あおあおと津軽が匂ふ茅の輪かな
   扇もて木曾三川を煽ぐかな
   火祭へ行く黒髪とすれちがふ
   秋茄子にこみあげる紺ありにけり
   水中をさらに落ちゆく木の実かな
   吊るされし鮟鱇何か着せてやれ
   凍鶴の影伸びてをり檻の外
   春待つは妻の帰宅を待つごとし
   わが前の柳眉怖ろし歌留多取
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 【鈴木鷹夫】昭3生(東京都足立区)「千年」は第5句集
 「鶴」から石田波郷没後 「沖」所属 同人 昭55沖賞、
 昭62「門」創刊主宰。平14能村登四郎没後「沖」辞す。
 「木暗また無明の道や二師の無し」の句が「千年」にある。

  自選代表句  男来て鍵開けてゐる雛の店
         落鮎の落ちゆく先に都あり

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★第28回俳人協会新人賞 ① (平成16年度) <2005/03/26>

◆ 辻美奈子 句集「真咲」 (自選15句)

     桜満開おのが身に皮膚いちまい
     春灯やをとこが困るときの眉
     旧姓といふ空蝉に似たるもの
     泣くときにつかふ腹筋豊の秋
     天空に月ひとつわが受精卵
     身ふたつのなんの淋しさ冬麗
     数へ日の閂ゆるき父母の家
     馥郁と闇あり産みし年惜しむ
     ゆつくりと縄締まりゆく花の雨
     大樹いま水さかのぼる立夏かな
     光年は涼しき距離ぞ生まれ来よ
     竹皮を脱ぐやこどもはいつも旬
     翼なけれど裸子を抱く双手
     恋のころ来し花野にて子を抱けり
     手の中に小さき手のある雪催
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   【辻美奈子】昭40生(埼玉県川越市)
   昭58「沖」入会、能村登四郎 林翔に師事、同人。
   平5沖新人賞、平7沖珊瑚賞。

   自選代表句  みどり児に貝ほどの舌山笑ふ
          竹皮を脱ぐやこどもはいつも旬

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★第28回俳人協会新人賞 ② (平成16年度) <2005/03/26>

◆ 松永浮堂 句集「げんげ」 (自選15句)

       げんげ田のさざなみに身を投じけり
       大旦海は劫初の色に照る
       炎より弾ける火の粉初不動
       落椿音なきことを未来とす
       千年の墓百年の花吹雪
       花菖蒲だらりの帯を結ふごとく
       雪渓へ一身寄せて一歩かな
       ぼうたんの崩れを誰も止められず
       石ころにこつと当りぬ藻刈鎌
       棒持って遊びにゆく子秋桜
       くちびるはすでに思春期さくらんぼ
       飛び込んで紺の深まる水着かな
       曼珠沙華古墳に発し野に移る
       山国の青き五月に目覚めけり
       荒星に投網を打ってみたくなる
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    【松永浮堂】昭31生(埼玉県加須市)
    昭52「浮野」入会、落合水尾に師事、同人。平14 浮野大賞。

    自選代表句  妻抱へ下ろして花野つづきをり
           炎より弾ける火の粉初不動

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★第28回俳人協会新人賞 ③ (平成16年度) <2005/03/26>

◆ 山崎祐子 句集「点睛」(自選15句)

   国境に塩のこぼるる淑気かな
   佐保姫へ歩みを揃へフラミンゴ
   そら豆剥くよくしやべる子が側に居て
   夏館氷触れ合ふ音運ぶ
   飛び込みのはがねとなりて水を割る
   こだまする祈り嘆きの壁涼し
   濁り酒干せよ神輿の来る夜ぞ
   蠍座の尾を草原の呑み込みぬ
   天の川いちまいの天真つ二つ
   盆舟にまだあたたかき白団子
   満月が落ちてくるよと眠りけり
   筆箱に芋虫を入れ登校す
   十三夜丹波の壷に水満たす
   木の葉散る音あり宇宙研究所
   小春日の麒麟となれり飴細工
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 【山崎祐子】 昭31生(神奈川県厚木市)
 昭59「風」入会 沢木欣一に師事、同人。平1「風」新人賞。
 平14 「万象」及び「栴檀」同人。

  自選代表句  野分過ぎ勿来の関に月上がる
            こだまする祈り嘆きの壁涼し

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