冬帽子 (句評)
北へ行く鞄の上の冬帽子 加藤暢一
温暖の国に住む者なら誰しも寒冷の地に哀愁を覚える。
それだけに言葉だけが先走ると、安価な歌謡曲の感傷に堕する。
さすがに作者は、言葉の説明を排し全ての思いを鞄の上の冬帽子に託した。
きちっと揃った両膝に乗る旅鞄。 その上に置かれた冬帽子。
そこから浮かび上がる生真面目な人間像と状況は、冬帽子によって無理なく読みとれるのである。
(見留貞夫氏) 1990