冬の海 (句評)
冬の海喪服を提げて旅にあり 加藤暢一
五月号寒露集二の巻頭を占めた五句の中の一句。
作者は伊勢の人である。ご本人との話の中で、二見ヶ浦も近いと聞いたことがある。
この冬の海は伊勢湾の海であろうか、それとも志摩半島を越して広がる熊野灘でもあろうか。
そんな詮索は無用の事と承知しながら、南紀、伊勢、志摩の地図を広げてしまったが、喪服を提げて喪から帰る作者の目に映った冬の海は、見慣れた地元の景であろうか、それとも初めて訪れた地の冬の海の景なのか、又しても思いあぐねるのだが、白浪の見える限りは喪心は去らないようだ。
(青山丈氏) 2008