【春】 時候

  寒明(かんあけ)
       わがかたちわがこゑ寒の明けにけり  岡本眸
       石切場崖垂直に寒明くる         加藤暢一

  冴返る(さえかえる)
       冴返る花壇の端に靴のあと       岡本眸
       冴返りつつ伊勢志摩の花便り      加藤暢一

  三月(さんがつ)
       三月の息の白さの山あそび       岡本眸
       よき音で鳴る三月のハーモニカ     加藤暢一

  (はる)
       春の町帯のごとくに坂を垂れ       富安風生
       春の都電光りて中の夫見えず      岡本眸
       ポケットの本やや重く春きざす      加藤暢一

  春惜む(はるおしむ) 惜春
       惜春の洋傘開くとも黒し         岡本眸
       襟釦外して春を惜しみけり        加藤暢一

  春寒(はるさむ・しゅんかん) 料峭
       料峭や岨に捉へて薩埵富士      富安風生
       春寒し聞けば些事とも云ひきれず   岡本眸
       春寒といふ煌めきの波頭        加藤暢一

  春めく(はるめく)
       春めくと己れへ言えばひとりごと    岡本眸
       春めくと思ふ小雨や夜を更かす     加藤暢一

  行く春(ゆくはる) 
       行く春の波打際を湖も持つ       岡本眸
       行く春を夜更かしすれば雨の音    加藤暢一       

  立春(りっしゅん) 春立つ 春来る
       屋上は日の受皿よ春来つつ       岡本眸
       立春の星の出揃ふ海の上        岡本眸
       伊勢道の一歩一歩に春来る       加藤暢一
       春立つや大き輪を描く鳶の舞       加藤暢一
       戸惑ひは立春の日の温きこと      加藤暢一
       買ふつもりなけれど花舗へ春立つ日  加藤暢一 

【春】 天文

  (おぼろ) 
       おぼろ夜の遊具刑具に似たるかな  岡本眸
       朧夜の遠くを過ぐる救急車       加藤暢一

  (かすみ) 霞む
       霞む日や人の面に波しぶき       岡本眸

  春光(しゅんこう) 
       磨きては窓の春光ふくらます      岡本眸

  春の雲(はるのくも)
       坂ゆるく身を押し上ぐる春の雲     岡本眸
       春の雲ふはふは旅にゆきたけれ   加藤暢一

  春の星(はるのほし) 春星
       春星や墓地に使ひしマッチほど    岡本眸

  春の雪 淡雪 牡丹雪
       淡雪や訪はむには誰もやや遠く    岡本眸       

  春日(はるひ) 春の日
       春日いま人働かす明るさに       岡本眸

【春】 地理

  春の山(はるのやま)
       高からず低からずして春の山   富安風生
       春の山海見えるまで登らうよ    加藤暢一

  山笑う(やまわらう)
       山笑ふ墓に告げ口しに来れば   岡本眸
       旅なればこその昼酒山笑ふ     加藤暢一

【春】 生活

  草餅(くさもち)
       戦争中はと話し出す草の餅      岡本眸
       夜は雨といふ草餅の草のいろ     岡本眸
       草餅買ふ師の草餅の句が好きで   加藤暢一

  (たがやし) 田打
       ゆく雲の北は会津や春田打      岡本眸
       海女が来て段々畑耕せり       加藤暢一      

  風船(ふうせん) 紙風船
       ふくらめばおのづと離れ紙風船    岡本眸
       紙風船膨らませて何するでもなく   加藤暢一

【春】 行事

  四月馬鹿(しがつばか) 万愚節
       愚といふ美徳廃れぬ万愚節      富安風生
       知らぬこと知らで良きこと四月馬鹿   岡本眸
       正確に電車着きたる万愚節       加藤暢一

  風生忌(ふうせいき) 梅寿忌
       梅寿忌の梅の盛りに出あひけり    岡本眸
       岡崎に師縁俳縁風生忌         加藤暢一

【春】 動物

  (うぐいす) 初音
       うぐひすや子に日曜の父の膝    岡本眸
       駅までは杜が近道初音して     加藤暢一

  亀鳴く(かめなく)
       亀鳴いて夜の帳を下ろしけり     加藤暢一
       独りとは気楽なものよ亀の鳴く    加藤暢一


【春】 植物

  馬酔木(あしび・あせび) 花馬酔木
       佇てばすぐそこが日溜り花馬酔木   岡本眸
       神鶏の人に親しき花馬酔木       加藤暢一

  木の芽(このめ・きのめ) 柳の芽 桜の芽 芽吹く 芽立ち
       退屈なガソリンガール柳の芽      富安風生
       芽吹きつづけて暗い木明るい木    岡本眸
       明るさに匂ひありけり芽吹山      加藤暢一
       家内より外の暖かし桜の芽       加藤暢一
       鈴鹿嶺に雪新たなる桜の芽      加藤暢一       
       夾竹桃芽立ちて朝日よく弾く      加藤暢一
       
  (さくら) 遅桜 朝桜 夕桜 遠桜 
       一もとの姥子の宿の遅桜        富安風生
       強風に川青ざめし遠桜          岡本眸       
       参道をリヤカーの行く朝桜        加藤暢一
       鈴の音の空耳らしき夕桜         加藤暢一
       漆黒の空や桜の螺鈿めく        加藤暢一
       雪洞の等間隔の桜かな         加藤暢一
       夕間暮空も桜も色失せる         加藤暢一

  桜蘂降る(さくらしべふる)
       桜蘂降る一生が見えて来て       岡本眸
       桜蘂降りて残れる一屋台         加藤暢一
       
  桜草(さくらそう) プリムラ
       プリムラや眩暈のごとく昼が来て    岡本眸
       プリムラや朝日小躍りしてをりぬ     加藤暢一

  三色菫(さんしきすみれ) パンジー
       パンジーに置く椅子低し共に吹かれ  岡本眸 
       パンジーの花壇より立つ半旗かな   加藤暢一

  山茱萸の花(さんしゅゆのはな)
       山茱萸の咲くより夜々の靄ふかき   岡本眸
       山茱萸の黄の深閑と屋敷町       加藤暢一

  シクラメン
       シクラメン子がゐて話先へ先へ     岡本眸
       茶房の扉押せば鈴鳴るシクラメン    加藤暢一

  下萌(したもえ) 草青む 草萌
       萌え出でて吾亦紅なるかなしさよ    富安風生   
       草青む夜の両足をそろへ寝る      岡本眸
       草萌や疎林の影の縞模様        加藤暢一

  (すみれ)
       菫挿しこの墓誰を加へたる        岡本眸
       綿雲に心乗せるやすみれ草       加藤暢一       

  夏蜜柑(なつみかん) 夏柑
       夏柑や朝は己れに立ちむかひ      岡本眸
       夏蜜柑二つに分けて母とをる      加藤暢一

  (はな) 花屑
       つなぐ手のやや冷たくて花爛漫     岡本眸
       花の夜の別るるころの雨模様      加藤暢一
       花屑にぶつかりぶつかり水馬      加藤暢一

  木蓮(もくれん) 白木蓮 紫木蓮
       白木蓮やひらひらと子の知恵づくよ   岡本眸
       紫木蓮還暦過ぎて恋をして        加藤暢一
       瞬いて点る門灯紫木蓮          加藤暢一

【夏】 時候

  七月(しちがつ)
       ちちははの忌をみどり濃き七月に   岡本眸
       七月の月満ちて吾が誕生日      加藤暢一

  初夏(しょか・はつなつ) 夏初め
       はつ夏や使ひつつ水匂ひ出す     岡本眸 
       雑木山夏のはじまる匂ひして     加藤暢一
       朗々と父の忌修す夏初め        加藤暢一

  涼し(すずし) 夜涼
       北限に住むさびしさを涼しさに     岡本眸
       ぽつぽつと湖北縁取る夜涼の灯    加藤暢一

  夏めく(なつめく)
       季無しの簾ながらに夏めきぬ      岡本眸
       夏めくや志摩の山風潮風        加藤暢一

  立夏(りっか) 夏来る 夏立つ
       遠くを見るたのしさ夏の来たりけり  岡本眸
       夏立つや雨の明るき伊勢平野    加藤暢一

【夏】 天文

  梅雨(つゆ) 青梅雨 梅天 梅雨雲 梅雨晴間
       青梅雨の湯あがりをまだ灯さず    岡本眸
       梅天の海を覗けば深みどり       加藤暢一
       遠山に梅雨の深さを見たりけり     加藤暢一
       掃除婦に合羽重たく梅雨寒く      加藤暢一
       果てしなきもの海原の梅雨の色    加藤暢一       
       梅雨楽し第二火曜日句座生れて   加藤暢一
       梅雨の月居酒屋出れば町眠り     加藤暢一
       梅雨雲のいづこや雲雀囀れり     加藤暢一
       曖昧に日暮れて梅雨のきざしけり   加藤暢一
       ひとりゐてひとりの音の梅雨めきぬ  加藤暢一
       句座までの小さな旅や梅雨晴間    加藤暢一

  西日(にしび)
       映画館の腹は西日に窓もたず     富安風生
       麦はざに西日厳しき荒磯かな      富安風生
       波除けに女首出す西日川        岡本眸
       マラソンの己が影追ふ西日中     加藤暢一

  夕焼(ゆうやけ)
       想ふこと春夕焼より美しく        富安風生
       夕焼居らんか母葬り来し墓地もかく  岡本眸
       志摩半島大夕焼に突き出でぬ     加藤暢一
       夕焼や西方といふ淋しきもの      加藤暢一

【夏】 地理

  青田(あおた) 青田風
       軒端よりただちに崇し青田富士    富安風生
       申し訳ないやうな青田道あるく     岡本眸 
       日が射して潮の香ほのと青田風    加藤暢一

  植田(うえた)
       一望の青の遅速も植田照       岡本眸
       植田照小駅つづきて乗降なし     岡本眸
       四方暮れて植田明りの伊賀盆地   加藤暢一
       まどろみの車窓植田の照返し     加藤暢一

  (たき)
       滝見てふよるべなきことしてひとり   岡本眸
       伊勢道の深山に入るや滝の音     加藤暢一

  夏の川(なつのかわ)
       故郷の町のにほひや夏の川      加藤暢一

【夏】 生活

  (あせ)
       汗拭いて身を帆船とおもふかな   岡本眸
       汗引きゆく何か失ふ心地して     加藤暢一

  草矢(くさや)
       草矢うつ遠きはいつも希まれて    岡本眸
       草矢打つ誰も気づかぬ誕生日    加藤暢一

  サングラス
       サングラス外して父の墓の前    加藤暢一

  すててこ
       母寝ねし後のすててこ姿かな    加藤暢一

  扇子(せんす)
       待ち時間あれば句を練る扇子かな  加藤暢一

  (ちまき) 粽巻く
       裏山の笹の小振りや粽巻く      加藤暢一

  夏帽子(なつぼうし)
       木洩日の雨のごとしよ夏帽子     岡本眸
       六十は遊び盛りの夏帽子       加藤暢一

  日傘(ひがさ・ひからかさ) 白日傘
       日傘さすとき突堤をおもひだす    岡本眸
       白日傘母健やかに老い給ふ     加藤暢一
       吟行の先頭をゆく白日傘        加藤暢一

  露台(ろだい) バルコニー
       灯の数も旅の遠さの露台かな    岡本眸
       落日の淡海全景バルコニー      加藤暢一

【夏】 行事

  原爆忌(げんばくき) 広島忌
       子を抱き上ぐ脚やや開き広島忌   岡本眸
       広島に生きて日焼の脚太し     岡本眸
       働いて日曜終る原爆忌        加藤暢一
       町川の雨に濁れる広島忌      加藤暢一
       放たれし鳩の行方や原爆忌     加藤暢一

  鯉幟(こいのぼり) 幟 矢車 吹流し
       鯉幟伊勢路の山河やはらかき   加藤暢一

  時の日(ときのひ)
       時の日や石階すでに草がくれ    岡本眸 
       時の日の昼過ぎてより日差しけり  加藤暢一

  万太郎忌(まんたろうき) 傘雨忌
       暖簾出て銭湯開く傘雨の忌      加藤暢一

【夏】 動物

  (うなぎ)
       鰻屋の二階思はぬ句座となり   加藤暢一

  (か)
       浄閑寺昔の声で蚊が鳴けり     岡本眸
       蚊を打つて故郷の夜の無音なり  加藤暢一

  金魚(きんぎょ)
       電話待つままに更けゆく夜の金魚 加藤暢一

  (せみ) 油蝉 蝉時雨
       油蝉死せり夕日へ両手つき     岡本眸
       先導のごとき声あり蝉時雨     加藤暢一

  (ほたる) 蛍火 蛍籠
       蛍くれし子に何がなと思へども   富安風生
       瀧よぎり了へて蛍火ふくらみぬ   岡本眸
       蛍籠ほたるの闇を持ち帰る      加藤暢一

  老鶯(ろうおう・おいうぐいす)
       老鶯や珠のごとくに一湖あり    富安風生
       老鶯や散らばり降つて雨かろし   岡本眸
       老鶯や小さき入江の牡蠣筏     加藤暢一
       老鶯に迎へられ且つ見送られ    加藤暢一
       老鶯に歩のとどまりてとどまりて   加藤暢一

【夏】 植物

  紫陽花(あじさい) 四葩
       鍛冶の火を浴びて四葩の静かかな  富安風生
       紫陽花に伏字のごとき一日かな    岡本眸
       紫陽花の枯れ忘れをる木下闇     加藤暢一
       紫陽花の雨やシャンソン口に出て   加藤暢一
       紫陽花の続く小道や疲れけり      加藤暢一

  夾竹桃(きょうちくとう)
       夾竹桃朝の街音俄なる         加藤暢一
       夾竹桃紺碧統ぶる空と湖        加藤暢一

  桐の花(きりのはな) 花桐 桐咲く
       屑籠の昨日を捨てる桐咲けり     岡本眸
       花桐や父の忌重ね母卒寿       加藤暢一

  金糸梅(きんしばい)
       金糸梅勾玉池の奥暗む         加藤暢一

  河骨(こうほね)
       花咲いて河骨と知る通ひけり      加藤暢一

  木下闇(こしたやみ) 木の暗 下闇
       木の暗をわがひとりゆく齢濡れ     富安風生
       下闇の明るさあれば道岐れ       岡本眸
       木下闇抜ければ海の見えるはず    加藤暢一
       紫陽花の枯れ忘れをる木下闇      加藤暢一

  新緑(しんりょく) みどり
       日々みどり鴨居拭く腕よく伸びて     岡本眸
       新緑にお木曳車なだれ込む       加藤暢一

  月見草(つきみそう)
       水かけて二の腕洗ふ月見草       岡本眸
       眠れずに宿を出て見る月見草      加藤暢一

  時計草(とけいそう)
       時計草朝日に刻をきざみだす      加藤暢一

  葉桜(はざくら) 花は葉に
       花は葉に巻けば細身の男傘       岡本眸
       花は葉に伊勢は祭に明け暮れて     加藤暢一
       葉桜や雨に光れる父の墓         加藤暢一

  (はす・はちす) 白蓮(ビャクレン)
       掛軸の蓮咲きゐる青畳          岡本眸
       白蓮に照葉の影の薄みどり        加藤暢一

  花菖蒲(はなしょうぶ) 菖蒲田 菖蒲園 白菖蒲
       菖蒲田の径の乾くに篠の角        富安風生
       包まれて棒のごとしよ花菖蒲       岡本眸
       風動き海の匂ひの菖蒲園         加藤暢一
       花菖蒲見ても海を見てもひとり       加藤暢一
       花菖蒲ことに風あるひとところ       加藤暢一
       花菖蒲ことに白きが揺れてをり      加藤暢一
       菖蒲田の無残やのこる花二つ       加藤暢一
       風止みて刻のとどまる花菖蒲       加藤暢一
       白菖蒲ほどよく揺れて眠くなる       加藤暢一

  花水木(はなみずき)
       花水木散り敷く雨のネオン街       加藤暢一

  浜昼顔(はまひるがお)
       浜昼顔空より碧き海の凪          加藤暢一

  万緑(ばんりょく)
       万緑の中富士とわが一対一       富安風生
       万緑や打たれしごとき身の火照り    岡本眸
       神鶏の昼を高鳴く万緑裡         加藤暢一
       万緑の潮じめりしてきたるかな      加藤暢一
       万緑の端なだれ落つ熊野灘        加藤暢一

  百日紅(ひゃくじつこう) さるすべり
       何恃めとや躍り咲く百日紅        岡本眸
       一日の怠惰に暮るる百日紅       加藤暢一
       百日紅ほろほろ散つて恋終る      加藤暢一

  (ふじ) 藤棚
       藤咲くやむかし小使室暗し        岡本眸
       藤棚を起点に池を一巡り         加藤暢一

  牡丹(ぼたん) 黒牡丹 ぼうたん
       六歌仙にも黒主や黒牡丹        富安風生 
       牡丹に七曜終る雨荒び          岡本眸
       牡丹見て他人と話す二三言       加藤暢一

  緑蔭(りょくいん)
       緑蔭を襖のうしろにも感ず         富安風生
       緑蔭に凶器ばかりの鋳掛の荷      岡本眸
       緑蔭やいつものベンチ他人のゐて    加藤暢一       

  若葉(わかば)
       朝の髪結ふ肘高く柿若葉         岡本眸
       磴若葉終の一歩を飛びて尽く       岡本眸
       小社に拍手響かせ樟若葉         加藤暢一

【秋】 時候

  秋の暮(あきのくれ)
       道ひろく村の子遊ぶ秋の暮        富安風生
       ガレージの奥に階見え秋の暮      岡本眸
       秋の暮稲荷狐に見つめられ        加藤暢一
       秋暮れて猫の寄りくる膝の上       加藤暢一

  爽やか(さわやか)
       かかる小さき墓で足る死のさはやかに 岡本眸
       爽やかや千木金色の多賀大社      加藤暢一
       母爽やか卆寿に一つ加へけり      加藤暢一       

  八月(はちがつ)
       八月の桜紅葉を掃けるかな        富安風生
       八月の顔荒涼と海の前           岡本眸
       八月の広島に来て子の寡黙        加藤暢一

  初秋(はつあき) 秋初め
       山国に省略の秋はじまりね         岡本眸
       高空に一鳥の点秋はじめ          加藤暢一

  行秋(ゆくあき) 秋逝く
       秋逝かす顔拭くやうに窓ふいて      岡本眸
       行く秋や乗換駅の待時間          加藤暢一

  夜長(よなが) 長き夜
       次の間の灯を消しに起つ夜の長き    岡本眸
       傘借りて居酒屋を出る夜の長き      加藤暢一
       夜長の灯消さねば話きりもなし      加藤暢一
       母の寝間まだ灯の点る夜長かな     加藤暢一

  立秋(りっしゅう) 秋立つ
       秋立てる港の音の中にゐる        岡本眸
       秋立つや昨日と違ふ水の色        加藤暢一

【秋】 天文

  十六夜(いざよい・じゅうろくや) 既望
       うす衣を被きて愁ふ既望かな    富安風生
       子規忌なり十六夜なりと酒を酌む  加藤暢一
       手を振るは別れの仕草十六夜     加藤暢一

  雨月(うげつ)
       葛棚の雫のあらき雨月かな      富安風生
       葉が少し置かれ雨月の外流し    岡本眸       

  台風(たいふう)
       颱風に吹きもまれつつ橡は橡    富安風生
       解く髪のぬくく台風来つつあり     岡本眸
       颱風のなりひそめたる華燭の儀   加藤暢一
       台風過忌中の札を貼り直す      加藤暢一
       東京へ台風逸れてゆきにけり     加藤暢一
       台風の真向ふ伊勢は神の国     加藤暢一
       台風裡一蝋燭に一家寄り       加藤暢一     
       台風の眼に居て静寂恐ろしき     加藤暢一

  立待月(たちまちづき) 立待
       古き沼立待月を上げにけり      富安風生
       立待の上がりて暗き街路灯      加藤暢一

  (つゆ) 白露 露けし
       落葉松の苗圃の白露微塵なり    富安風生
       露結ぶ明日焚かるべき塵の上    岡本眸
       独り打つ碁の石音の露けしや     加藤暢一

  寝待月(ねまちづき)
       湯茶欲りて机を立ちぬ寝待月     岡本眸
       夜業終へ独り飯食ふ寝待月       加藤暢一

  後の月(のちのつき) 十三夜
       通るとき二階が開きぬ十三夜     岡本眸
       坂道の夜店すぐ盡く十三夜       岡本眸
       膝抱いて長湯してをり後の月      加藤暢一

       

  更待月(ふけまちづき) 更待
       更待の雨や早々寝たりけり      加藤暢一 

  名月(めいげつ) 十五夜 満月       
       十五夜の醤油とくとく匂ひけり     岡本眸
       満月や雨の木曽路を越えたれば   加藤暢一
       十五夜の家内を暗くして愉し      加藤暢一       

【秋】 地理

  水澄む(みづすむ)
       水澄めり酔へばかなしき軍歌   岡本眸
       水澄むや小さな礁の潮仏      加藤暢一

【秋】 生活

  温め酒(あたためざけ) 温(ぬく)め酒
       わが余命如何や如何にと温め酒    加藤暢一

  (おどり) 盆踊
       はるばると来て淋しさを踊るなり     岡本眸
       温泉の宿の下駄で加はる盆踊     加藤暢一
       掌で雨確かめつ踊りけり         加藤暢一

  愁思(しゅうし) 秋意
       拝殿の奥うす暗き秋意かな       加藤暢一

  稲架(はざ) 稲掛
       稲かけて天の香具山かくれたり     富安風生
       鳥あそぶ湖より低く稲架組めば      岡本眸
       丁寧に稲架の並びて奥信濃       加藤暢一

  花火(はなび)
       遠花火寂寥水のごとくなり        富安風生
       軒下の雨の手花火すぐ終る       岡本眸
       ゆつたりと間を置いてより大花火    加藤暢一
       揚花火伊勢に百余の神眠る       加藤暢一
       花火見の帰路ふりかへりふりかへり  加藤暢一

  火恋し(ひこいし)
       火恋しとつぶやく父へ母へかな     岡本眸
       寝惜しみてもの書く癖や火の恋し     加藤暢一

  松手入(まつていれ)
       松手入してをりたればほかは見ず    富安風生
       松手入して風の音波の音         加藤暢一

【秋】 行事

  神嘗祭(かんなめさい)
       大杉に星の荒ぶる神嘗祭        加藤暢一

  敬老の日(けいろうのひ) 老人の日 年寄の日
       としよりの日や膝の上に子を起たせ  岡本眸
       敬老の日や夜遊びをして更けぬ    加藤暢一

  子規忌(しきき) 糸瓜忌
       糸瓜忌や男の怒り言少な         岡本眸
       子規忌なり十六夜なりと酒を酌む    加藤暢一

  七夕(たなばた) 星祭
       女の部屋の灰皿汚れ星祭        岡本眸
       星祭雲の深きに願ひけり          加藤暢一   

  重陽(ちょうよう) 菊の宴
       母米寿なり真似事の菊の宴       加藤暢一

  墓参(はかまいり) 墓洗う
       本当は捨てられしやと墓洗ふ       岡本眸
       墓参別れし妻のきたるらし         加藤暢一
       父の墓洗ふ兄の掌妹の掌         加藤暢一

  盂蘭盆(うらぼん) 盆
       盆の月お山の空は夜もあをし      富安風生
       家のうちのあはれあらはに盆燈籠    富安風生
       盆の夜の海に道あるおもひかな      岡本眸
       新幹線より見て盆踊ひとつまみ     岡本眸
       きこきことポンプ井戸汲む盆の墓     加藤暢一

【秋】 動物

  蟋蟀(こおろぎ) ちちろ虫
       蟋蟀の親子来てをる猫の飯    富安風生
       百貨店空家になりてちちろ虫    加藤暢一

  蜻蛉(とんぼ) 赤蜻蛉
       起重機は港の双掌赤とんぼ    岡本眸
       ふと思ひ父の墓訪ふ赤とんぼ   加藤暢一

  (むし) 虫の声 虫売
       虫の声鬨をつくりてさしひきす    富安風生
       本読めば本の中より虫の声     富安風生
       たはやすく蟲賣の顔忘らるる    岡本眸
       雨音に虫鳴き残るひとところ     加藤暢一

【秋】 植物

  狗尾草(えのころぐさ) 猫じゃらし
       折とりてわが家の猫へねこじゃらし   加藤暢一

  (きく) 小菊 菊日和 菊花展
       菊日和夜は満月をかかげけり      富安風生
       一括り二括り菊たけなはに         岡本眸
       一区画小菊畑の屋敷町          加藤暢一
       灯を消してよりの厨に小菊の香      加藤暢一
       菊花展懸崖のまだ蕾なる         加藤暢一

  黄葉(こうよう) 黄葉(もみぢ)
       車窓より見下ろす街路黄葉せり     加藤暢一

  木の実(このみ)
       よろこべばしきりに落つる木の実かな  富安風生
       木の実拾ふ捨つると決めてなほ一つ   岡本眸
       ポケットの捨て損ねたる木の実かな   加藤暢一

  草の花(くさのはな)
       潮の香の溜まれば汚れ草の花      岡本眸
       斎野をよぎる鉄路や草の花        加藤暢一

  (すすき)
       この頃は旅ままならぬ萩芒         加藤暢一

  蕎麦の花(そばのはな)
       蕎麦の花ぽつんと蕎麦屋ありにけり   加藤暢一

  (はぎ)
       少女期は何かたべ萩を素通りに     富安風生
       山萩に淋漓と湖の霧雫           富安風生
       萩叢と睦み合ひつつ蓼は蓼         岡本眸
       萩散つて地は暮れ急ぐものばかり    岡本眸
       起きぬけの声嗄れ萩も終りけり      岡本眸
       つい覗く築地の内や萩の花        加藤暢一
       旅なれや歩みをゆるく萩白く        加藤暢一
       出不精の母誘ひ出す萩の花        加藤暢一
       この頃は旅ままならぬ萩芒         加藤暢一

  瓢の実(ひょんのみ)
       瓢の実を吹くや鳴る人鳴らぬ人      加藤暢一

  曼珠沙華(まんじゅしゃげ) 彼岸花
       曼珠沙華恙なく紅褪せつつあり      富安風生
       曼珠沙華畦を衂りて古蹟たり        富安風生
       曼珠沙華安心の葉の出でにけり      岡本眸
       曼珠沙華咲き親不知歯痛み出す     岡本眸
       山越ゆるごとに村々曼珠沙華        加藤暢一
       曼珠沙華白きは月の下に咲く       加藤暢一
       曼珠沙華折れてをり子の過ぎしあと    加藤暢一
       多賀行の一輌電車曼珠沙華        加藤暢一
       川のあるこの町が好き曼珠沙華      加藤暢一

  木犀(もくせい)
       木犀の景に必ず塀ありぬ          岡本眸
       木犀の香やどの路地を歩いても      加藤暢一

  紅葉(もみぢ) 濃紅葉 桜紅葉
       濃紅葉と戦ふごとくうちむかふ       富安風生
       濃紅葉や生きてゐしかば刻の中      岡本眸
       川風に桜紅葉の一途なる          加藤暢一

  紅葉且つ散る(もみぢかつちる)
       伏葱に紅葉かつ散る庵せり         富安風生
       紅葉且つ散つて会話の途切れなく     加藤暢一

【冬】 時候

  大晦日(おおみそか) 大年
       大年の墓掃く独語漏らしけり        岡本眸
       大年の街染まりたる落暉かな       加藤暢一
  凍る(こおる) 凍つ
       凍る夜の一時うつ音余韻なし       富安風生
       夕凍や誰がため白き割烹着        岡本眸
       灰捨てる全面凍てし川の上         岡本眸
       星一つ流れていよよ凍てにけり      加藤暢一

  十一月(じゅういちがつ)
       白し疾し十一月は一紙片          岡本眸
       何となく煙たく十一月なりけり       岡本眸
       退屈な十一月の伊勢平野         加藤暢一        

  節分(せつぶん)
       酒母室の灯も節分となりにけり      岡本眸
       犬多忙なり節分の人中に          岡本眸
       節分の夜更けてわたる風のこゑ      加藤暢一

  大寒(だいかん)
       大寒と敵のごとく対ひたり         富安風生
       大寒の耳あかあかと洗ひ髪        岡本眸
       大寒の街透きとほる月明り         加藤暢一

  初冬(はつふゆ)
       初冬の川豊かなり静かなり         加藤暢一

  立冬(りっとう) 今朝の冬 冬立つ 冬に入る
       立冬や午後は机上に日の賑はひ     岡本眸
       立冬の女いきいき両手に荷         岡本眸
       立冬の新聞重き雨湿り           加藤暢一
       今朝の冬新刊二冊届きけり        加藤暢一
       新しき宇治橋の香に冬立てり        加藤暢一
       冬に入る何か忘れてゐるやうな      加藤暢一

【冬】 天文

  オリオン  
       つかの間の雪のあとなるオリオンよ  加藤暢一

  風花(かざはな)
       風花や塀にはりつき柩車通す      岡本眸
       風花や鳥羽は北への始発駅       加藤暢一     

  北風(きたかぜ・きた)
       北風つのるどこより早く厨に灯       岡本眸
       電飾の煌と北風強き街          加藤暢一

  木枯・凩(こがらし)
       木枯や子を思ふとき神だのみ      岡本眸
       木枯や百面相の千切れ雲        加藤暢一
       木枯の夜はひとしきり人恋し       加藤暢一

  冬銀河(ふゆぎんが)
       文楽や志ん生やいま冬銀河       岡本眸
       飛機の灯の紛れ込みたる冬銀河    加藤暢一

  冬の星(ふゆのほし) 寒星
       冬の星らんらんたるを怖れけり      富安風生
       寒星のひとつを引きてわが燈火     岡本眸
       寒星をつかみ手の平透きとほる     加藤暢一

  (ゆき)
       夜半覚めて雪の踏切思ひをり      岡本眸
       引き返す雪道過去へ戻るごと      加藤暢一
       伊勢の雪積む暇なく道濡らす      加藤暢一
       つかの間の雪のあとなるオリオンよ   加藤暢一
       ひゆるひゆると薬缶歌ふよ雪降れば  加藤暢一

  雪催(ゆきもよい)
       菜を茄でて顔ひた濡らす雪催      岡本眸
       鉄扉一枚開いて葱買ふ雪催       岡本眸
       居酒屋の一灯赤き雪催         加藤暢一

【冬】 地理

  冬田(ふゆた)
       冬田水夕焼に齟語ありにけり    岡本眸
       コンビニの一灯ありて冬田道     加藤暢一
       残照の村を遠見に冬田道       加藤暢一

【冬】 生活

  息白し(いきしろし) 白息
       夜半覚めて息の白さに興じをり     岡本眸
       まつ白な息が言葉に今日はじまる    岡本眸
       一と息の白さ激しさ鉄扉下ろす     岡本眸
       息白く窓を拭き上げ佳き日とす     加藤暢一

  賀状書く(がじょうかく) 賀状出す
       古き丸き郵便ポスト賀状出す      加藤暢一

  注連飾る(しめかざる)
       日本一なれば傘杉注連飾る       加藤暢一

  焚火(たきび)
       熾んなる焚火見てより歩を早む     岡本眸
       全景の芦暮れなづむ焚火かな      加藤暢一

  年忘(としわすれ) 忘年会
       老校書一さし舞ひぬ忘年         富安風生
       忘年や別れてよりは川に沿ふ      岡本眸
       忘年の酔の醒めたる寡黙かな      加藤暢一

  膝掛(ひざかけ)
       血縁のうすき膝掛毛布かな       岡本眸
       膝掛や明日おもふとき目をつむり    岡本眸
       膝掛や夜は濤音をはるかにす      岡本眸
       卓に覚め膝掛毛布引き寄する      加藤暢一

  冬籠(ふゆごもり)
       火と話し水と話して冬ごもり       岡本眸
       冬籠わづかに海の端使ひ         岡本眸
       冬ごもり朝より朱きペン使ひ       岡本眸
       右肘の綻び易き冬籠           加藤暢一

  湯気立て(ゆげたて)
       湯気立てて大勢とゐるやうに居り    岡本眸
       湯気立ててをりぬ何かを忘れをりぬ   岡本眸
       母看るや湯気立てて粥枕辺に      加藤暢一

【冬】 行事

  一葉忌(いちようき)
       わが日記句帳もて足る一葉忌     岡本眸
       夜の路地に救急車入る一葉忌     加藤暢一
       一葉忌ポンプ井戸より供花の水    加藤暢一

  神の留守(かみのるす) 神還る
       神還る山頂に人遊ばしめ        岡本眸
       楠木の洞の冥みや神の留守      加藤暢一

  クリスマス 聖夜 聖樹
       聖夜の階のぼる灯の無きフロア過ぎ  岡本眸
       鳩笛を買ふ聖樹下の屋台店       加藤暢一
       聖夜更く富士山麓の星明り       加藤暢一

  年越詣(としこしもうで) 除夜篝
       除夜篝火の粉を飛ばし星増やし     加藤暢一

  三島忌(みしまき)
       埒もなき深夜のテレビ三島の忌     加藤暢一
       

【冬】 動物

  (たか) 鷹渡る 長元坊
       碁の勝負長元坊の判を待つ    富安風生
       饒舌や鷹の渡りを見し友の    加藤暢一 

  千鳥(ちどり) 磯千鳥
       風紋におきて千鳥の迹くはし    富安風生
       海の青河口の碧や磯千鳥     加藤暢一

  寒鯉(かんごい)
       寒鯉やわが青春期死ぬるまで  加藤暢一
     

【冬】 植物

  銀杏散る(いちょうちる) 散銀杏 銀杏落葉 
       銀杏散る遠くに風の音すれば      富安風生      
       銀杏散る視野に余りしところより      岡本眸
       銀杏散り尽くして家に窓残る       岡本眸
       駅までの道の直線銀杏散る        加藤暢一
       東京に美しき季あり散銀杏        加藤暢一
       わが町の末社末寺や銀杏散る      加藤暢一
       
  落葉(おちば)
       爪のいろ明るく落葉はじまりぬ      岡本眸
       落葉斯く掃かれてしだれざくら句碑    加藤暢一
       さくさくと落葉を踏んで晩年へ       加藤暢一

  枯菊(かれぎく)
       枯菊を剪るうす埃あがりけり        富安風生
       墓守に枯菊焚くを委ねけり         加藤暢一

  枯蔦(かれづた) 蔦枯る
       蔦枯れて鉄階の錆落ち着きぬ       加藤暢一

  山茶花(さざんか)
       山茶花にひとりを好む家居しぬ      富安風生
       山茶花のめりはりもなき日暮かな     岡本眸
       山茶花の咲き競ひ且つ散り競ひ      加藤暢一
       追憶に白山茶花のこぼれつぐ       加藤暢一
       今朝掃きし山茶花のこのこぼれやう    加藤暢一
       

  茶の花(ちゃのはな)
       掌にのせて茶の花を仰向かす       富安風生
       飯移す香やはればれと茶が咲いて     岡本眸
       茶の花の咲きこぼれゐて農閑期      加藤暢一

  石蕗の花(つわのはな)
       石蕗黄なり文学の血を画才に承け     富安風生
       衝立のはしに庭見ゆ石蕗の花        富安風生
       石蕗咲くや道は日向に走るなり       岡本眸
       晴るる日の身のよく動く石蕗の花      岡本眸
       石蕗咲いて午後の時間のひと握り      岡本眸
       石蕗咲けば北に会ひたき人と海       岡本眸
       石蕗日和茶室三方開け放ち         加藤暢一
       花石蕗や墓苑全き日の溜           加藤暢一

  (ねぎ)
       葱焼いて世にも人にも飽きずをり       岡本眸
       下総の四方に山なき葱畑           加藤暢一

  冬枯(ふゆがれ) 枯る
       一杖を夕日へ曳けば枯れこぞる       岡本眸
       頬杖をついて車窓の枯山河          加藤暢一 

  龍の玉(りゅうのたま) 
       生きものに眠るあはれや龍の玉       岡本眸
       秘め事といへどささやか竜の玉       加藤暢一

【新年】 時候

  新年(しんねん) 年始 新歳
       山を見る一つ加へし齢もて      富安風生
       年はじまる顔むけて聴く鳥の歌    岡本眸

【新年】 天文

  淑気(しゅくき)
       淑気満つ暁闇に踏む砂利の音      加藤暢一
       伊勢の海の玻璃たたへたる淑気かな  加藤暢一

【新年】 地理

  初景色(はつげしき)
       日は光ひかりは鳥や初景色    岡本眸
    

【新年】 生活

  仕事始(しごとはじめ) 初仕事 縫始
       怠れど針は器用や縫始        富安風生
       仕事始父の形見の工具研ぎ     加藤暢一
       時計師の眼鏡を拭ひ初仕事      加藤暢一
       反り返る暦を正し初仕事        加藤暢一

  節振舞(せちふるまい) 節料理
       重箱に母の歴史や節料理       加藤暢一

  乗初(のりぞめ) 初電車
       初電車待つといつもの位置に立つ  岡本眸
       乗初の日射あまねき伊勢平野    加藤暢一 

  初句会(はつくかい)
       同齢のみんな綺麗や初句会     岡本眸
       片膝に日差し匂へる初句会      加藤暢一
       初句会しばらくは膝正しをり      加藤暢一

  初旅(はつたび)
       初旅の空よ山河よまぎれなし    加藤暢一

  初日記(はつにっき) 
       まづ一句大きく記す初日記      加藤暢一

  読初(よみぞめ) 読始
       傾倒する馬鹿一ものを読始      富安風生
       読初の傍らに置く昼の酒        加藤暢一  

【新年】 行事

  初詣(はつもうで)
       山道の掃いてありたる初詣        富安風生
       奥伊勢の社殿紅きに初詣         加藤暢一
       さはさはと神杉鳴れる初詣        加藤暢一

  破魔矢(はまや)
       伊勢の海へ破魔矢の鈴の鳴りにけり  加藤暢一

【新年】 動物

  初雀(はつすずめ)
       ビル住みに屋上日和初雀    岡本眸

【新年】 植物

  (なずな) 初薺
       籠に溢れわが目にあふれ初薺   岡本眸
       席代の薺を卓にひと摑み       岡本眸  

  歯朶・羊歯(しだ) 裏白
       裏山に手づから剪りて歯朶長し   富安風生
       裏白に軽くきれいな朝の雨      岡本眸

  福寿草(ふくじゅそう)
       物を干す同じ日向に福寿草      岡本眸
       頬杖に昼を眠れり福寿草        岡本眸

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