【春】 時候
寒明(かんあけ)
わがかたちわがこゑ寒の明けにけり 岡本眸
石切場崖垂直に寒明くる 加藤暢一
冴返る(さえかえる)
冴返る花壇の端に靴のあと 岡本眸
冴返りつつ伊勢志摩の花便り 加藤暢一
三月(さんがつ)
三月の息の白さの山あそび 岡本眸
よき音で鳴る三月のハーモニカ 加藤暢一
春(はる)
春の町帯のごとくに坂を垂れ 富安風生
春の都電光りて中の夫見えず 岡本眸
ポケットの本やや重く春きざす 加藤暢一
春惜む(はるおしむ) 惜春
惜春の洋傘開くとも黒し 岡本眸
襟釦外して春を惜しみけり 加藤暢一
春寒(はるさむ・しゅんかん) 料峭
料峭や岨に捉へて薩埵富士 富安風生
春寒し聞けば些事とも云ひきれず 岡本眸
春寒といふ煌めきの波頭 加藤暢一
春めく(はるめく)
春めくと己れへ言えばひとりごと 岡本眸
春めくと思ふ小雨や夜を更かす 加藤暢一
行く春(ゆくはる)
行く春の波打際を湖も持つ 岡本眸
行く春を夜更かしすれば雨の音 加藤暢一
立春(りっしゅん) 春立つ 春来る
屋上は日の受皿よ春来つつ 岡本眸
立春の星の出揃ふ海の上 岡本眸
伊勢道の一歩一歩に春来る 加藤暢一
春立つや大き輪を描く鳶の舞 加藤暢一
戸惑ひは立春の日の温きこと 加藤暢一
買ふつもりなけれど花舗へ春立つ日 加藤暢一