【秋】 植物

  狗尾草(えのころぐさ) 猫じゃらし
       折とりてわが家の猫へねこじゃらし   加藤暢一

  (きく) 小菊 菊日和 菊花展
       菊日和夜は満月をかかげけり      富安風生
       一括り二括り菊たけなはに         岡本眸
       一区画小菊畑の屋敷町          加藤暢一
       灯を消してよりの厨に小菊の香      加藤暢一
       菊花展懸崖のまだ蕾なる         加藤暢一

  黄葉(こうよう) 黄葉(もみぢ)
       車窓より見下ろす街路黄葉せり     加藤暢一

  木の実(このみ)
       よろこべばしきりに落つる木の実かな  富安風生
       木の実拾ふ捨つると決めてなほ一つ   岡本眸
       ポケットの捨て損ねたる木の実かな   加藤暢一

  草の花(くさのはな)
       潮の香の溜まれば汚れ草の花      岡本眸
       斎野をよぎる鉄路や草の花        加藤暢一

  (すすき)
       この頃は旅ままならぬ萩芒         加藤暢一

  蕎麦の花(そばのはな)
       蕎麦の花ぽつんと蕎麦屋ありにけり   加藤暢一

  (はぎ)
       少女期は何かたべ萩を素通りに     富安風生
       山萩に淋漓と湖の霧雫           富安風生
       萩叢と睦み合ひつつ蓼は蓼         岡本眸
       萩散つて地は暮れ急ぐものばかり    岡本眸
       起きぬけの声嗄れ萩も終りけり      岡本眸
       つい覗く築地の内や萩の花        加藤暢一
       旅なれや歩みをゆるく萩白く        加藤暢一
       出不精の母誘ひ出す萩の花        加藤暢一
       この頃は旅ままならぬ萩芒         加藤暢一

  瓢の実(ひょんのみ)
       瓢の実を吹くや鳴る人鳴らぬ人      加藤暢一

  曼珠沙華(まんじゅしゃげ) 彼岸花
       曼珠沙華恙なく紅褪せつつあり      富安風生
       曼珠沙華畦を衂りて古蹟たり        富安風生
       曼珠沙華安心の葉の出でにけり      岡本眸
       曼珠沙華咲き親不知歯痛み出す     岡本眸
       山越ゆるごとに村々曼珠沙華        加藤暢一
       曼珠沙華白きは月の下に咲く       加藤暢一
       曼珠沙華折れてをり子の過ぎしあと    加藤暢一
       多賀行の一輌電車曼珠沙華        加藤暢一
       川のあるこの町が好き曼珠沙華      加藤暢一

  木犀(もくせい)
       木犀の景に必ず塀ありぬ          岡本眸
       木犀の香やどの路地を歩いても      加藤暢一

  紅葉(もみぢ) 濃紅葉 桜紅葉
       濃紅葉と戦ふごとくうちむかふ       富安風生
       濃紅葉や生きてゐしかば刻の中      岡本眸
       川風に桜紅葉の一途なる          加藤暢一

  紅葉且つ散る(もみぢかつちる)
       伏葱に紅葉かつ散る庵せり         富安風生
       紅葉且つ散つて会話の途切れなく     加藤暢一

【秋】 動物

  蟋蟀(こおろぎ) ちちろ虫
       蟋蟀の親子来てをる猫の飯    富安風生
       百貨店空家になりてちちろ虫    加藤暢一

  蜻蛉(とんぼ) 赤蜻蛉
       起重機は港の双掌赤とんぼ    岡本眸
       ふと思ひ父の墓訪ふ赤とんぼ   加藤暢一

  (むし) 虫の声 虫売
       虫の声鬨をつくりてさしひきす    富安風生
       本読めば本の中より虫の声     富安風生
       たはやすく蟲賣の顔忘らるる    岡本眸
       雨音に虫鳴き残るひとところ     加藤暢一

【秋】 行事

  神嘗祭(かんなめさい)
       大杉に星の荒ぶる神嘗祭        加藤暢一

  敬老の日(けいろうのひ) 老人の日 年寄の日
       としよりの日や膝の上に子を起たせ  岡本眸
       敬老の日や夜遊びをして更けぬ    加藤暢一

  子規忌(しきき) 糸瓜忌
       糸瓜忌や男の怒り言少な         岡本眸
       子規忌なり十六夜なりと酒を酌む    加藤暢一

  七夕(たなばた) 星祭
       女の部屋の灰皿汚れ星祭        岡本眸
       星祭雲の深きに願ひけり          加藤暢一   

  重陽(ちょうよう) 菊の宴
       母米寿なり真似事の菊の宴       加藤暢一

  墓参(はかまいり) 墓洗う
       本当は捨てられしやと墓洗ふ       岡本眸
       墓参別れし妻のきたるらし         加藤暢一
       父の墓洗ふ兄の掌妹の掌         加藤暢一

  盂蘭盆(うらぼん) 盆
       盆の月お山の空は夜もあをし      富安風生
       家のうちのあはれあらはに盆燈籠    富安風生
       盆の夜の海に道あるおもひかな      岡本眸
       新幹線より見て盆踊ひとつまみ     岡本眸
       きこきことポンプ井戸汲む盆の墓     加藤暢一

【秋】 生活

  温め酒(あたためざけ) 温(ぬく)め酒
       わが余命如何や如何にと温め酒    加藤暢一

  (おどり) 盆踊
       はるばると来て淋しさを踊るなり     岡本眸
       温泉の宿の下駄で加はる盆踊     加藤暢一
       掌で雨確かめつ踊りけり         加藤暢一

  愁思(しゅうし) 秋意
       拝殿の奥うす暗き秋意かな       加藤暢一

  稲架(はざ) 稲掛
       稲かけて天の香具山かくれたり     富安風生
       鳥あそぶ湖より低く稲架組めば      岡本眸
       丁寧に稲架の並びて奥信濃       加藤暢一

  花火(はなび)
       遠花火寂寥水のごとくなり        富安風生
       軒下の雨の手花火すぐ終る       岡本眸
       ゆつたりと間を置いてより大花火    加藤暢一
       揚花火伊勢に百余の神眠る       加藤暢一
       花火見の帰路ふりかへりふりかへり  加藤暢一

  火恋し(ひこいし)
       火恋しとつぶやく父へ母へかな     岡本眸
       寝惜しみてもの書く癖や火の恋し     加藤暢一

  松手入(まつていれ)
       松手入してをりたればほかは見ず    富安風生
       松手入して風の音波の音         加藤暢一

【秋】 地理

  水澄む(みづすむ)
       水澄めり酔へばかなしき軍歌   岡本眸
       水澄むや小さな礁の潮仏      加藤暢一

【秋】 天文

  十六夜(いざよい・じゅうろくや) 既望
       うす衣を被きて愁ふ既望かな    富安風生
       子規忌なり十六夜なりと酒を酌む  加藤暢一
       手を振るは別れの仕草十六夜     加藤暢一

  雨月(うげつ)
       葛棚の雫のあらき雨月かな      富安風生
       葉が少し置かれ雨月の外流し    岡本眸       

  台風(たいふう)
       颱風に吹きもまれつつ橡は橡    富安風生
       解く髪のぬくく台風来つつあり     岡本眸
       颱風のなりひそめたる華燭の儀   加藤暢一
       台風過忌中の札を貼り直す      加藤暢一
       東京へ台風逸れてゆきにけり     加藤暢一
       台風の真向ふ伊勢は神の国     加藤暢一
       台風裡一蝋燭に一家寄り       加藤暢一     
       台風の眼に居て静寂恐ろしき     加藤暢一

  立待月(たちまちづき) 立待
       古き沼立待月を上げにけり      富安風生
       立待の上がりて暗き街路灯      加藤暢一

  (つゆ) 白露 露けし
       落葉松の苗圃の白露微塵なり    富安風生
       露結ぶ明日焚かるべき塵の上    岡本眸
       独り打つ碁の石音の露けしや     加藤暢一

  寝待月(ねまちづき)
       湯茶欲りて机を立ちぬ寝待月     岡本眸
       夜業終へ独り飯食ふ寝待月       加藤暢一

  後の月(のちのつき) 十三夜
       通るとき二階が開きぬ十三夜     岡本眸
       坂道の夜店すぐ盡く十三夜       岡本眸
       膝抱いて長湯してをり後の月      加藤暢一

       

  更待月(ふけまちづき) 更待
       更待の雨や早々寝たりけり      加藤暢一 

  名月(めいげつ) 十五夜 満月       
       十五夜の醤油とくとく匂ひけり     岡本眸
       満月や雨の木曽路を越えたれば   加藤暢一
       十五夜の家内を暗くして愉し      加藤暢一       

【秋】 時候

  秋の暮(あきのくれ)
       道ひろく村の子遊ぶ秋の暮        富安風生
       ガレージの奥に階見え秋の暮      岡本眸
       秋の暮稲荷狐に見つめられ        加藤暢一
       秋暮れて猫の寄りくる膝の上       加藤暢一

  爽やか(さわやか)
       かかる小さき墓で足る死のさはやかに 岡本眸
       爽やかや千木金色の多賀大社      加藤暢一
       母爽やか卆寿に一つ加へけり      加藤暢一       

  八月(はちがつ)
       八月の桜紅葉を掃けるかな        富安風生
       八月の顔荒涼と海の前           岡本眸
       八月の広島に来て子の寡黙        加藤暢一

  初秋(はつあき) 秋初め
       山国に省略の秋はじまりね         岡本眸
       高空に一鳥の点秋はじめ          加藤暢一

  行秋(ゆくあき) 秋逝く
       秋逝かす顔拭くやうに窓ふいて      岡本眸
       行く秋や乗換駅の待時間          加藤暢一

  夜長(よなが) 長き夜
       次の間の灯を消しに起つ夜の長き    岡本眸
       傘借りて居酒屋を出る夜の長き      加藤暢一
       夜長の灯消さねば話きりもなし      加藤暢一
       母の寝間まだ灯の点る夜長かな     加藤暢一

  立秋(りっしゅう) 秋立つ
       秋立てる港の音の中にゐる        岡本眸
       秋立つや昨日と違ふ水の色        加藤暢一